《ググッと茨城県西・記者探訪記》茨城・坂東 岩井巨峰会 高度な栽培技術広める 県産ブドウのルーツ

茨城新聞
2021年9月11日

ブドウの産地として、あまり知られていない茨城県坂東市。市内では、旧岩井町時代の1954年から巨峰作りがスタートし、57年に発足した組合「岩井町巨峰会(現在は岩井巨峰会)」が、県内外のブドウ農家に高度な栽培技術を広めてきた。約70年の歴史を誇る同組合が茨城県ブドウ栽培のルーツであると知り、市内ブドウ農家を訪ねてみた。

▽県内認知度低く
いばらき食と農のポータルサイト「茨城をたべよう」には、主な県内ブドウ生産地の一つに坂東市は入っていない。県内での知名度不足の要因は、2010年ごろまで都内市場へ出荷しており、常陸太田や石岡などの県内産地よりも地元での直売経験が浅いことなどが挙げられる。現在は組合員7人全員が市場出荷から直売に切り替えた。

10年ほど前から直売を始めた組合長の倉持健さん(61)の農園「泉巨峰園」(同市小泉)は、今シーズンは8月5日から9月上旬まで販売した。寒暖差が激しい地域の巨峰は、味がつく前に皮が色づいてしまうが、寒暖差が少ない茨城のブドウは「味が乗ってから色づく。だから甘みと酸味のバランスがいい」のが特長。同農園では多い日には1日200キロを売り上げる。9月11日から13日までは、組合が新たな産物として力を入れるシャインマスカットを販売する。

▽贈答用として人気
旧岩井町は、昭和30年代までは葉タバコ、麦、大豆などの栽培が盛んな地域。作物の転換が進む中、巨峰の生みの親で農学者の大井上康氏に師事した「マルカ巨峰園」(同市長谷)の滝本学さん(享年93)が、この地に巨峰を持ち込み栽培。同組合を創設するとともに、県内外のブドウ農家に栽培のこつを伝え歩いた。

自然のままの有核(種あり)栽培にこだわり、甘くて粒が大きい岩井の巨峰は長年、都内の高級百貨店や高級果実店で贈答用として販売されてきた。しかし、種なしブドウを求める消費者ニーズの高まりや家庭用に房売りを希望する人が多くなり、市場から撤退。市民からは「坂東で巨峰ができるとは思わなかった」という声は多いものの、高級果実店と同じ高品質な巨峰が直売で味わえると、徐々に浸透してきた。

▽さらに情熱注ぐ
今年1月に亡くなった滝本さんから農園を引き継いだ2代目園主の紳さん(69)は「父親は1県に1人いる巨峰作りの先駆者で努力家だった。日本理農協会や大井上さんから学んだことを生かして栽培技術の普及に努めていった」と振り返る。同農園では、巨峰、安芸クイーン、シャインマスカットを栽培し、例年は9月20日ごろまで直売所で販売している。

巨峰作りの先駆者である学さんの遺影を前に決意を語る滝本紳さん(右)=坂東市長谷

 

多くのリピーターを確保するためにも、毎年、安定した品質のブドウを生産することが目標で、ブドウの甘さと3品種の独特な香りを大切にしながら栽培している。「昨年は暑さでブドウの木が夏バテした」が、今年は気温が昨年ほど高くなかったため、甘みが強く、香りの良いブドウができた。

今年も直売所は来店客でにぎわい、今シーズンは9月初旬に完売する人気ぶりだった。「今後も父親の教えである『絶対に諦めない』という言葉を胸に研究を重ね、ブドウ作りに情熱を注ぎたい」と力を込めた。

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