《ぐんま再発見》知られざる傑作に光 優れた寺社彫刻

上毛新聞
2020年1月29日

 県内には優れた彫刻が施された神社や寺が数多くあるものの、広く知られていないのが実情だ。特に神社装飾の芸術性は江戸時代に向上したとされ、江戸や日光東照宮(栃木県日光市)に比較的近い本県にも技術が伝わるなど影響を与えたとみられる。観光面での活用も視野に入れ、県教委は本年度、県内の寺社約380カ所の調査に着手した。2年計画で、近世の建物が複数現存する本県の特色に改めて光を当て、魅力を掘り起こそうとしている。

 妙義山の麓にある妙義神社(富岡市)。杉木立の中できらびやかな本社がひときわ異彩を放つ。青や緑、金などに彩色された唐獅子、鳳凰、波などの彫刻が軒下や壁面に施され、こうした絢爛(けんらん)豪華な装飾が参拝客の目を引きつけている。

◎日光から影響
 本社は拝殿と幣殿、ご神体を祭る本殿で構成する。川島邦夫宮司は「本殿が最も丁寧に造られている」と説明。同神社の拝殿の柱は黒塗りで、本殿は柱に金箔(きんぱく)が施されており、「後ろにある本殿までぐるりと見学してほしい」としている。

 神社彫刻は、日光東照宮の建築に関わった彫物師が現在のみどり市東町花輪などに住むようになり、発展していった。江戸の初期は柱の一部程度だった装飾が後に軒下へと広がり、中期になると壁面に、後期以降は建物全体を覆うようになる。

 江戸後期の1806年に建てられた榛名神社(高崎市)の本社は床下の基礎に彩色や彫刻が及んでいる。「上州の左甚五郎」と呼ばれた名人、関口文治郎が梁(はり)に装飾した彫刻の龍は、高い芸術性を誇ることで知られている。

 県文化財保護審議会の村田敬一副会長は、江戸期に庶民が中心になって神社が建築され、装飾化が進んだと指摘する。彫刻を鮮やかにしたり、山深い場所に築いて神秘性を高めたりして「庶民が非日常を感じられるように空間を演出した」と解説した。

◎台湾やタイ
 一方、寺の見どころは本堂の内部や仏像だ。曹源寺(太田市)の栄螺(さざえ)堂には立体的に巡回する参拝路があり、西国、坂東、秩父の観音札所計100カ所の観音像の写しを見学できる。

 水沢寺(渋川市)の六角堂は内部に安置された六地蔵が回転する全国的に珍しい建物だ。年間100万人に上る参拝者の多くが、寺の雰囲気に魅せられたリピーターという。

 近年は台湾やタイからの観光客も多く、ホームページを多言語対応にした。山本徳明住職は「アジアは仏教国が多く、寺をPRすることは(周辺地域を含めた)いい集客策になる」としている。(三神和晃)

 【写真】絢爛豪華な装飾が目を引く富岡市の妙義神社

 【メモ】県内には約2400の寺社がある。県教委は国・県重要文化財に指定された21カ所の寺社などを紹介するパンフレットやスマートフォンアプリを3月に公開予定。4~6月に行われる大型観光企画「群馬デスティネーションキャンペーン(DC)」での活用を目指している。