《食いこ》結城麦酒醸造(茨城・結城市) 元教員、ビールにひたむき

茨城新聞
2022年7月5日

猛暑が続き、ビールがおいしい季節を迎えた。街の一角にある茨城県結城市の「結城麦酒醸造」では、発酵などに使う大きなタンクが並び、代表の塚越敏典さん(64)とスタッフがビール造りや瓶詰めに精を出していた。「この時期はお中元などもあり、ビールがよく売れる」。その表情は明るく、充実感が漂っている。

塚越さんは結城市内の小中学校で校長を務めた元教員。定年退職後、県内の美術館職員として働いていたが、「結城にないものを作り、それをきっかけに町の良さを知ってもらいたい」と考えるように。同世代の友人たちとの会話から、小規模な醸造所が手作りする「クラフトビール」の製造を思いつき、宇都宮市内のビール醸造所に3カ月間通い、一から製法を学んだ。

教員とは180度違う世界。挑む怖さはあったが、「やらない後悔が一番怖い。子どもたちにも失敗を恐れずに挑戦しろと言ってきた」と塚越さん。自身の信条でもあるこの言葉に背中を押され、2019年7月に創業した。

醸造所では、結城市産の大麦やトウモロコシといった農作物などを風味付けに使った12種類のビールを発売する。そのうちの一つ、「つむぎエール」は桑の実を使った珍しい一品。「結城といえば結城紬(つむぎ)。つむぎといえば蚕、蚕といえばエサの桑の実-といった連想から着目した」と取り入れた理由を話す。

トウモロコシやユズなどを使った多彩なビールは、香りや味わいの違いが楽しめる

 

ビールは完成までに約1カ月かかる。お湯に麦芽を入れて糖化させた後、できた麦汁をろ過して煮詰め、ホップを投入。再び煮詰めたら、桑の実などで風味付けし、冷やしてからビール酵母を加えて約2週間発酵させ、さらに2~3週間かけて熟成させた後、瓶詰めする。

最も気を使うのが発酵させるとき。「風味に影響する」として道具の洗浄など衛生管理を徹底する。発酵具合を左右するため、温度管理や酵母の量などの微調整も欠かせない。「ビールは生き物。きちんと発酵しているか気になり、夢に見るほど」。開業からほぼ休みなく醸造所に出向き、ビールの出来を確認するなど、目標に向かうひたむきさは教員時代と変わらない。

購入客から寄せられる「おいしかった」の声や、教え子たちからの励ましが原動力だ。成人した教え子たちと、マスクなしで乾杯できる日を夢見て、塚越さんはビール造りに励む。

■お出かけ情報
結城麦酒醸造
▽住所は結城市中央町1の7の1
▽直販は午前8時~午後6時。
▽不定休
▽(電)090(1812)4510電話やインターネットでも注文を受け付けるほか、筑西市の道の駅でも販売する。