耳の病の治癒願い、全国から参拝 茨城・小美玉の耳守神社 観光協HPで紹介 早世した平安の姫祭る

茨城新聞
2021年8月16日

耳の病を患う人やその家族などが、治癒を願って全国から訪れる神社が茨城県小美玉市内にある。「耳守(みみもり)神社」(同市栗又四ケ上郷)だ。平安時代の昔、耳が聞こえず早世したお姫さまの遺言を受け、設けられたと伝わる小さな社には「ママの耳が良くなって」「聴力が回復しますように」などと書かれた絵馬が幾つも掛けられ、参拝者の切々とした思いが伝わってくる。

同神社があるのは、農村風景が広がる道路沿い。幅の狭い急な石段を上り、朱色の鳥居をくぐると、こぢんまりとした社殿が立っている。拝殿の窓には、直径5センチ、長さが30センチほどのユニークな竹筒の絵馬がくくりつけられている。

鳥居の奥に拝殿と本殿がある=小美玉市栗又四ケ

 

「人工内耳手術が成功し、家族みんなと話ができますように」「○○君の耳にパパやママの声が届いて笑顔で溢(あふ)れますように」「△△の両耳に声や音が届いて、発語がどんどん増えますように」…。絵馬に書かれているのは、「耳」に関わる願いごとばかり。千葉県や山形県からの来訪をうかがわせる文字も見える。

「千代姫さまお守りください」。中にはそんなふうに記された物も。拝殿脇に立つ石碑の碑文によれば、「千代姫」は平国香(?~935年)の孫、飯塚兼忠の娘で、幼少時から耳が不自由だった。熊野権現の神徳で一時は人一倍聞こえるようになったのだが、33歳で早世したという。不治を悟り「我亡キ後ニナルナラバ一社ヲ祀(まつ)リ給ワレカシ耳ノ病ヲ守護セン」と遺言し、父母が社を設け「耳守ト号シ」たのが、同神社の始まりという。

上郷地区の20戸ほどの氏子が管理する神社は、無人で地味なたたずまいだ。だが「耳の守護」を掲げる神社は全国的にも他にないとされる。小美玉観光協会は同神社を「パワースポット」としてホームページで紹介。会員制交流サイト(SNS)の普及で、遠方からの参拝者も増えている。

同神社の氏子で、市文化財保護審議会委員でもある田上和喜さん(72)は「4年ほど前、(タレントの)堂本剛さんが突発性難聴になった際、群馬県から訪ねて来た20代のファンがいた」と話す。参拝者から注文を受けて絵馬の竹筒を作っている市内の竹細工師、菊池和夫さん(71)は「2年前の茨城国体のとき、耳の悪い生徒のことを思い、石岡のバドミントン競技会場から、3キロの道のりを神社まで歩いてきたという岡山県の先生がいた」と振り返った。

6月初旬、同神社を初めて訪れた千葉県酒々井(しすい)町の会社員、石塚栄さん(61)と容子さん(56)夫妻は「(容子さんの)83歳の母が急に耳が聞こえなくなって、耳に御利益がある神社などがないかと検索したら、小美玉の神社が出てきた」とインターネットで調べた。夫妻に竹筒を作ってあげた菊池さんは「わらをもつかむって昔の人は言ったけど、あそこにある絵馬に書いてあることを読むと、みんなその気持ちだと分かる」と話す。

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