歴史と文化 ブランドに ろまんちっく村ブルワリー(宇都宮)

下野新聞
2021年7月15日

 緑豊かな里山が広がる宇都宮市北西部の拠点施設「道の駅うつのみやろまんちっく村」。温泉施設や農産物直売所といった存在感ある建物群の一角に、大谷石が外装を彩るブルワリー(ビール醸造所)がある。1996年9月、同市制100周年記念事業として、ろまんちっく村がオープンしたのと同時に誕生した。

 94年の酒税法改正で小規模生産ができるようになり、到来した地ビールブーム。この流れに乗ってできたブルワリーとしては、県内で最も早い。ずらりと並んだ巨大なタンクは、四半世紀に及ぶ歴史の重みを感じさせるたたずまいがある。

 立ち上げ当初から現場を仕切る、所長の山下創(やましたはじめ)さん(50)。新生姜(しょうが)で知られる栃木市の岩下食品に勤めていたが、「ビール造りがやりたい」と転職に踏み切った。

 ブームの波は大きく、開設当時は多い時に1日500リットルくらい売れた。造ってはたる詰めし、ブルワリーの隣にあるレストランへと運び出す作業に追われた。

 しかし、ブームの陰りとともに、注文は減っていった。立ち上げに当たって大手ビールメーカーの支援を受けていたものの、品質向上のための技術が乏しかった。

 「このままじゃいけない」。情報収集に奔走し、販路拡大に向けて瓶詰販売にも乗り出した。

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 地道な試行錯誤を重ね、開設から10年がたったころだった。外部のイベントに参加すると、客に声を掛けられた。

 「『麦太郎』はある?」。当初から造っていたラガービールの銘柄だ。「ちょっと濃いめを好む地元の嗜好(しこう)に合わせた」(山下さん)という主力商品。客からのリクエストに「復活を実感した」。

 現在、通年で仕込んでいるのは麦太郎や「餃子(ぎょうざ)浪漫」など5種。そのほか、苦みと香りが特徴のIPA(インディアペールエール)などの限定商品を年に20~30種手掛ける。「麦やホップなどの原料の組み合わせや醸造方法で、可能性は無限に広がる」

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 そもそも農林公園として始まったろまんちっく村でのビール造りは、農業振興が狙いだ。全国屈指を誇る本県のビール麦生産が背景にあった。

 「自分たちの役割は、ビールを通して地域を発信すること」と山下さん。品質向上を目指し、県内のブルワリー同士で協議会を設立。全国でも珍しい取り組みとなっている。産学官の共同開発で、国際コンペ入賞の実績を積んできた。

 香りや風味付けに果物なども使うため、地元の農産物生産者から「これを使えないか」と話を持ち込まれることも増えてきた。

 「お客さまの期待を裏切らないよう良品質のビール造りと、全国有数のビール麦生産県という歴史と文化を生かしたブランドづくりに力を注ぎたい」。山下さんは、県内の先駆者として将来を見据えている。

 【メモ】宇都宮市新里町丙254。レストランの営業は、土日祝日が午前10時~午後2時30分、午後4~9時。平日は午前10時~午後4時。ホームページ等で要確認。原則第2火曜定休。瓶詰は県内のギョーザ店などで味わえるほか、商業施設や土産物店で購入できる。「麦太郎」は330ミリリットル入り550円。(問)028・665・8800。

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