《食いこ》放牧牛の生乳、熟成の味 新利根チーズ工房(稲敷市) 

茨城新聞
2020年7月13日

発酵、熟成により複雑な味わいが生まれるチーズ。稲敷市にある新利根チーズ工房を営む西山厚志さん(41)はその奥深い世界に魅せられた。「材料はミルクと塩だけ。アナログだがそこが面白い。自分の手腕が試される」とチーズ造りに情熱を傾ける。

元千葉県の職員。畜産の経営指導や酪農の六次産業化を研究する立場にいたが「酪農家を応援する行政側から、チーズを造る仲間になりたい」と人生を大転換させた。2014年、県職員を辞め、北海道十勝エリアのチーズ工房で修業した。

工房は同市内の新利根協同農学塾農場の一角にある。同農場は全国的にも珍しい、搾乳牛の放牧を行う。「放牧牛のミルクは特に熟成チーズのおいしさに反映する」。西山さんのチーズには同農場の生乳が不可欠だ。

手掛ける7種類のナチュラルチーズには地元愛あふれる魅力的な名前が付いている。蹄鉄(ていてつ)型の「勝馬蹄(かちばてい)」は市内の大杉神社境内にある勝馬神社にあやかった。食用炭をまぶして白い酵母で覆われている。2年に1度開かれるジャパンチーズアワードの18年大会「ソフト・酸凝固(山羊(やぎ)乳以外)」部門で銀賞を受賞した。

蹄鉄型のチーズ

ウオッシュタイプは塩水や酒などで表皮を磨いて、有用な菌を増やし熟成させていく。食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」に準拠するなど衛生管理を徹底した製造室で丁寧に磨く。

利根川に映る満月をイメージした「月利根」は、千葉県内の酒蔵の日本酒で週3回磨きながら7週間熟成させる。作りたての白からだんだんオレンジ色に変化し、ねっとりと強い風味に仕上がる。「稲敷ラクレット 稲光」は熱で溶かすとおいしさが増す。塩水で週2回表面を磨き、熟成に2カ月以上かける。

17年に工房をオープン。平日はチーズ製造、金曜-日曜・祝日に店舗販売、合間に稲敷市生産物直売施設「いなのすけ市場」や美浦村の直売所、千葉県神崎町と香取市の道の駅に配達するなど、1人で全力投球してきた。「地元の人に支えられてきた」と感謝する。今後は地域のイベントに出店し、「稲敷のチーズ」を広める活動もしたいと考えている。

■お出かけ情報
新利根チーズ工房
▼稲敷市東大沼☆(刃の下に一)新田1510の6 新利根協同農学塾農場内
▼営業時間は午後0時半~4時
▼定休は月曜-木曜(祝日除く)
▼(電)0299(94)3004

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