世界初、長期熟成に成功  那須高原ビール(那須)

下野新聞
2021年8月19日

 木立に囲まれた涼しげな空間が、真夏の暑さを忘れさせてくれる。東北自動車道那須インターチェンジを降りて間もなく現れる那須高原ビールのブルワリー(ビール醸造所)。1996年創業、宇都宮市のろまんちっく村ブルワリーと並ぶ県内のパイオニアだ。

 建物の入り口近くには、「ガッキー」こと人気俳優新垣結衣(あらがきゆい)さんの写ったパネル展示が。出演したテレビドラマ「獣になれない私たち」(2018年放送)の撮影が行われたことを紹介している。クラフトビールが主人公らをつなぐ飲み物として扱われたこのドラマ(はい、私も見ていました!)。看板商品「ナインテイルドフォックス」を模したビールも登場した。

 「放送後、注文が集中してオンラインショップのサーバーはダウン。関西のほか、日本に遅れて放送があった台湾からもお客さまが見えた」と小山田孝司(おやまだたかし)社長(68)。

 地元の九尾の狐(きつね)伝説に由来する「ナイン-」は「年月をかけておいしくなるビールができたら面白い」と1998年に誕生した。世界初の長期熟成ビール。何年も寝かせるため香りは甘く、ワインを思わせる味わい。ドイツ製のボトルも趣深い。

 麦芽などを通常よりも多く使い、アルコール度数は11%と高め。度数が高いとビール酵母が発酵しないため砂糖などを用いる例もあるが、「ナイン-」は独自技術によって四つのビール原材料のみで造る。世界最大規模の品評会「ワールドビアカップ」の熟成部門創設のきっかけとなり、2016年には金賞を獲得。シンガポール、台湾に続いて今年、香港への輸出も始まり、世界へと羽ばたく。

 ユニークなビールを目指した原点には、小山田社長の父道雄(みちお)さん(故人)の存在がある。家具販売の傍ら、家具を作る機械まで作って売ったりして、「面白い人だった」(小山田社長)。

 そうしたDNAを受け継ぎ、小規模生産を認める酒税法改正のニュースに触れて「自分にもできるのでは」と考え創業につながった。それでも「知らぬが仏でした」と小山田社長は苦笑いする。ビールは砕いた麦芽の大きさでも味が変わり、造り方のちょっとしたところが影響する繊細な飲み物だったという。

 10月30日に節目の創業25年を迎える。販路拡大の一方、那須水害や東日本大震災、新型コロナと、度々困難に見舞われてきた。併設のレストランは昨年、コロナ禍で例年の半分ほどしか営業できなかったという。

 飲食店での酒類提供規制も出荷に響く中で今夏、自家栽培でオーガニックの二条大麦を使い、ノンアルコールビールを開発した。従来、完全無ろ過で「フレッシュジュースのような」ビールを造ってきた。昨年からはオーガニックのホップ生産にも挑戦している。

 「那須で採れた原材料を使った、おいしいだけでない体にいいビールを造り続けていきたい」。地道な取り組みは、必ず実を結ぶはずだ。

 【メモ】那須町高久甲3986。定番商品は「愛」(330ミリリットル入り627円)など5種。「ナインテイルドフォックス」は本年産(9月9日発売)が500ミリリットル入り3850円。新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた県の要請を受け、営業時間は物販、レストラン共に9月12日まで午前10時半~午後7時に短縮し、レストランでの酒類提供は休止する(ノンアルコールビールは除く)。水曜定休。(問)0287・62・8958。

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