みなとメディアミュージアム 芸術と社会つなぎ10年

茨城新聞
2018年8月24日

ひたちなか海浜鉄道湊線沿線に現代アートを展示する「みなとメディアミュージアム(MMM)2018」が19日開幕した。地域活性化を目的に大学生が09年に始めてから10年目を迎えた。地元住民も賛同してサポートし、「芸術と社会をつなぐ」という理念が形になりつつある。

■体験型ワークショップ

初日の19日、ひたちなか市釈迦町の那珂湊駅前にあるイベントスペース「百華蔵」で、出展作家によるワークショップが開かれた。ワークショップは地域とのコミュニケーションを図ろうと、15年にスタートした。段ボールを材料に造形作品を手掛ける玉田多紀さん(35)を講師に、市立那珂湊中学校美術部の生徒が参加。生徒たちは水に浸して軟らかくした段ボールをちぎり、重ね合わせて体の一部を作った。最終的にそれぞれの作品を合体させて一つの生命に見立てる。段ボールは大学生たちが那珂湊地区の商店街に掛け合って調達した。

MMMで過去に大賞を受賞した玉田さんは7年ぶりの出展。MMMについて「制作過程にどんどん人が関わってきて、一緒に作っている感覚になる」と評する。

■大学生が発案

始まりは芸術に対する学生の疑問だった。

「芸術の力が活用されず社会とつながっていない。芸術を美術施設にとどまらせず、地方で生かしたい」

創設者の田島悠史さん(36)はそんなことを感じていた。当時は美大を経て大学院で芸術と社会の関わりを研究していた。現在は主に映像作品をつくり、地方の文化事業をマネジメントする。

一緒に企画した大学の友人が都市交通を研究していたこともあり、目を付けたのが鉄道だった。各地の路線を調べると、湊線をバックアップする市民団体「おらが湊鐵道応援団」のホームページを発見した。湊線は廃線危機を乗り越え、08年に第三セクターとして再出発したばかりだった。サイトでは湊線の活性化プロジェクトを募集中とあった。応援団長と海浜鉄道社長に企画を売り込み、快諾を得た。湊線に乗車しながら作品を見て回ることを狙い、第1回は駅を展示会場に実施した。

■「産・学・芸」連携

今の実行委員会には学生だけでなく、住民も加わる。商店街と鉄道、学生・教員にアーティストを加えた「産・学・芸」の組織をうたう。

住民たちは作品の搬入作業を手伝ったり、期間中に学生らが寝泊まりするアパートを手配したりする。

築約60年になる石蔵の百華蔵を12年から貸し出すのが建設業代表の上田良隆さん(45)。取り壊される予定だった蔵を11年に購入して改修し、イベントスペースで利活用している。

購入当時、出展作家が作品を蔵に展示したがっていると上田さんは聞いていた。上田さんは「MMMのために蔵は壊せない。真面目に那珂湊のためにやってくれる学生に何か返したかった」と振り返る。

実行委代表で明治学院大2年、山田萌結さん(19)は「自分たちも那珂湊を愛する者として、感謝と成長を見せるMMMにしたい」と語る。

毎年夏になると、住民から「今年は学生は来ないのか?」と声が上がるという。芸術は那珂湊に着実に定着し、人々に刺激を与えている。
◇    ◇

MMMは9月8日まで、那珂湊駅周辺の8会場で作品を展示。10年目を記念し歴代の大賞受賞者3人が出展している。

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