高まる醸造機運 茨城県産ワイン、自慢の味

茨城新聞
2021年1月9日

茨城でワイン造りの機運が高まっている。県内では「牛久シャトー」(牛久市)が歴史のある醸造場として有名だったが、比較的古くからある常陸太田市のほか、水戸市やつくば市でも独自のワイン造りが行われている。特に、つくば市は、筑波山の麓を拠点にする生産者が誕生。同市が「つくばワイン・フルーツ酒特区」認定(2017年12月)を受け、製造免許の申請時に、酒税法上の「酒類の最低製造数量基準」が6キロリットルから2キロリットルに緩和適用されたことが、事業者の新規参入へ後押しになったようだ。地域の代表的な生産者を訪ねた。

 

檜山酒造

檜山酒造(常陸太田市町屋町)が醸造する「常陸ワイン」。約40年前から本業である日本酒醸造の傍ら、ブドウ栽培から醸造までを一貫して行う。

醸造したワインの色や味をチェックする檜山酒造の檜山雅史社長=常陸太田市町屋町

 

ワイン造りを始めたのは、現広島大学醸造科で学んだ3代目の故檜山幸平さん。昭和50年代、県酒造組合主催のヨーロッパ視察の際、ワインに魅了されたのがきっかけという。十勝ワインの開発者、故沢登晴雄氏らの協力を得て、この地域の土や気候に合うヤマブドウ交配品種を試行錯誤で開発。ワイン用のブドウは数年かけて誕生した。

4代目の雅史(まさちか)社長(71)は「10年以上、3代目の傍らで働き、大切なところはメモで残した」。

現在、ヤマブドウ交配種で造るのは「小公子」「山ソービニヨン」「赤」「白」「ロゼ」の5銘柄。渋味と甘味、苦味がバランスよく調和し、ヤマブドウ独特の豊かな香りが自慢だ。雅史社長は「ワインはブドウで決まる。飲む人に『おいしい』と思ってもらえるワインを造りたい」と力を込める。

【檜山酒造】
「常陸ワイン」はヤマブドウ交配品種のほかに、常陸太田市産の巨峰が原料の白、ロゼもある。常陸太田市町屋町1359(電)0294(78)0611

 

ドメーヌ水戸

水戸市の中心市街地でワインを醸造する「ドメーヌ水戸」は2015年に設立、翌年から同市泉町2丁目の泉町会館で自社醸造を始めた。コンセプトは「体験」。醸造所が商店街にあり、消費者に近い特徴を生かす市民参加型のワイナリーだ。水戸産ワイン醸造5年目の宮本紘太郎社長(44)は「ワインで地域を活性化させたい」と語る。

ワインの分析で試料の採取をするドメーヌ水戸の宮本紘太郎社長=水戸市泉町

 

「『まちなかワイナリー』が一つの形。特徴をアピールし、ワインに触れてもらう機会をつくりたい」と宮本社長。農村部と都市部の交流を心掛け、1口1万円で募るサポーター「ひとくちオーナー」を中心に、希望者にワイン醸造や畑でのブドウ栽培・収穫を体験してもらっている。ワインブドウは、同市や城里町などで収穫されたものを使う。

いばらきワイン産業連絡協議会(14事業所・団体)の会長も務める宮本社長は、県産ワインの将来について「ビジネスとしてどう成立させるかが大事。今後は技術者を招き、協議会員による勉強会を開催したい」と語る。

【ドメーヌ水戸】
「水戸・ルージュ 鯉渕・アーリー・スチューベン2020」(赤)、がぶ呑みワイン「ミトブランコディマリア」(白)、同「ミトロホアランギス」(赤)などを、水戸市の京成百貨店地下、同市のプチロコス(エクセルみなみ3階)などで取り扱う。宮本社長(電)080(4405)2474

 

ビーズニーズヴィンヤーズ

「筑波山麓にワイン用のブドウ品種を植えたら、どんな味わいのワインができるのかというのが原点」-。つくば市でワイン用のブドウ栽培を1人で切り回し、“つくばワイン”のヌーベルバーグを送り出す「ビーズニーズヴィンヤーズ」の今村ことよ代表(47)はそう始まりを話す。

ブドウ栽培からワイン造りに取り組むビーズニーズヴィンヤーズ代表の今村ことよさん。新春から裸木のブドウの枝切りを始める=つくば市沼田

 

守谷市出身の今村さんは筑波大大学院から製薬会社に就職し、研究や新薬の臨床開発に携わった。会社員生活は充実し楽しかった。

その一方、国内のワイン産地を訪ね、その魅力にとらわれた。毎月、東京から長野のワイナリーに新幹線で通うようになる。妥協のないワイン造りを目の当たりにし、つくばでワインを造りたいという気持ちが頭をもたげた。

「製薬というもの作りに携わったが、ワイナリーなら学生時代を過ごしたつくばに戻って、もの作りの最上流から関われると思った」と今村さん。

調べると筑波山麓の土壌は世界のワイン銘醸地に似て、花こう岩の土壌で水はけがよく、ミネラル分豊富と分かった。気候は冷涼さに欠けるものの、品種を選べばいけると分析した。

40歳を機に退職。1年半の長野での研修生活を経て2015年、つくば市内に借りた農地にブドウ苗の植え付けを開始。ボランティアの手も借り、3年間で約4千本を植え付けた。広さも1.5ヘクタールまで広げた。17年秋には1トン弱のブドウを収穫した。

醸造は委託したが、自ら醸造や発酵を研究。知見を生かして世に問うたワインは、香りが高く、ボリュームがありしっかりした味わいで「日本ワインらしくない」と高評価を得た。今村さん自身は「私は合理主義者なので合理的な味」といたずらっぽく笑う。

ワインの味わいには木の成長具合、その年の天候、土壌と微生物の関係などが如実に現れる。害虫や病気、農薬など、さまざま要素も考え合わせ、丁寧で緻密なブドウ栽培を心掛ける。出来上がったワインから推論し仮説を立て、次の栽培、醸造に生かす。そうして目指すワインへ追い込んでゆく手法、姿勢はまさに研究者のそれだ。

「挑戦しないと面白みがない。ここ2、3年で求める方向性への自信を深めた」と今村さん。22年をめどに「何でも試せる」自前ワイナリーも計画中で、そうなれば正真正銘、地元産ワインだ。

「毎年の成果が出るのがうれしい。最初の一杯をおいしいと飲んで、気が付いたら1本飲み干していた-というようなワインを造りたい」と思い描く。

【ビーズニーズヴィンヤーズ】
白の「スパイラル」、赤の「オーバードライブ」、今年登場のミディアムボディ「パープルピークス」などを、つくば市のイーアスつくば、地酒本舗美酒堂(電)029(893)2479で取り扱う。

 

■牛久シャトー

茨城のワイン醸造の歴史は明治時代にさかのぼる。牛久シャトー(牛久市中央)は、実業家の神谷伝兵衛が1903(明治36)年に開設した日本最初期の本格的ワイン醸造施設。フランスのボルドー地方の技術を取り入れ、ブドウの栽培から醸造、瓶詰めまでを一貫して行っていた。

牛久シャトー=牛久市中央

 

2007年、近代化産業遺産に認定。赤れんが造りの洋館など旧醸造施設3棟は国の重要文化財。20年に認定された日本遺産「日本ワイン140年史~国産ブドウで醸造する和文化の結晶~」では、構成要素として、国内ワイン産業の黎明(れいめい)期に重要な役割を担ったと位置付けられ、歴史的価値の高さが評価されている。

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