おいしい地元産で乾杯 【ハロー! クラフトビール とちぎブルワリー探訪】個性豊かな味わい人気

下野新聞
2021年7月8日

 高い品質と多彩な味わいで近年、人気が高まっているクラフトビール。県内八つの醸造所やビアバーを巡り、楽しみ方や醸造に関わる人々を紹介する。

 シュワッとした心地よい刺激とともに、麦やホップの芳醇(ほうじゅん)な香りが口の中に広がっていく-。待ちに待った晩酌は、まさに至福の時間だ。

 間もなく梅雨が明けて夏本番となれば、ビールのおいしい季節。キンキンに冷えた“生中”も捨てがたいが、「クラフトビール」にもぜひ挑んでほしい。いつもと違った風味に初めは戸惑うかもしれないが、あれこれと飲み比べるうちに個性豊かな世界のとりこになっていくだろう。きぶなやサル、コウノトリ…。ポップなデザインのラベルで彩られた小ぶりな瓶は、並べて見ているだけでも心が躍る。

 国内では大手メーカーのラガービールが圧倒的シェアを誇るため、「ビール=のどごしよく苦い」といった印象が強い。一方で、クラフトビールは醸造家の表現による味わい、香りは多種多様。麦、ホップ、酵母、果物などの原材料や、醸造方法の違いで個性が出る。

 若い世代にファンが多いのも特徴の一つといえる。小規模ブルワリーの先駆け的存在、「栃木マイクロブルワリー」(宇都宮市)の横須賀貞夫(よこすかさだお)社長(55)によると、ビアバーや関連イベントの主な客層は20~40代。「今の若い世代はたくさん飲みたいというよりも、おいしいビールを1、2杯味わって、酔いつぶれる前に帰りたいという人が多い。ビールを『おしゃれな飲み物』として捉えているのでは」とみる。

 国内でのクラフトビールの歴史はまだ、30年ほどと浅い。1994年の酒税法改正によって小規模での製造が可能となり、全国各地に地ビール工場が続々と登場した。ただ、当初は大規模な投資をして工場やレストランを運営する、といった町おこしや観光振興の色彩が強く、品質にばらつきもあった。

 それがここ数年は、米国を参考にして都市部を中心に、より小規模で地域に根ざしたブルワリー(ビール醸造所)が増加。醸造技術も向上し、高品質なビールが味わえるようになった。

 県内では、96年創業の「ろまんちっく村ブルワリー」(宇都宮市)、「那須高原ビール」(那須町)を皮切りに地ビール工場が次々とオープン。2000年代に入り撤退する動きもあったが、13年頃から大小さまざまなブルワリーが立ち上がり、現在は八つが稼働している。

 全国的にみて珍しい取り組みもある。12年に県内醸造所による団体「栃木クラフトビール推進協議会」が発足。県産ビールの品質向上を目指し、職人同士が製造方法について情報交換したり、県産業技術センターや宇都宮大と共同研究を行ったりして、日々腕に磨きをかけている。

 横須賀社長はブルワリーの起業支援にも力を入れている。今後について「地方でもより地域に密着した小さなブルワリーができて、多様なビールがあちこちで飲めるようになる」と目を細める。近い将来、県内どこでも“おらが町のビール”を味わえる日が来るかもしれない。

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