並河靖之の雅な技 明治の京都七宝 茨城県五浦美術館企画展

茨城新聞
2022年8月27日

超絶技巧を駆使した明治時代の工芸品は、輸出産業の花形として人気を博した。繊細で優美な文様を施した工芸品、七宝(しっぽう)はその一つだ。茨城県北茨城市大津町の県天心記念五浦美術館で開催中の企画展「並河靖之の雅な技-世界を魅了した明治の京都七宝」で、当代一流の妙技を堪能できる。

京都で生まれた並河靖之(1845~1927年)は武家の出身だったが、明治維新直後、東京遷都に伴い、伝統が途絶えていた七宝に注目した。中国製の七宝を研究し、植線と呼ぶ金属線を下絵の輪郭にして、その中にガラスの粉を入れて焼く「有線七宝」の技法を確立。国内の第一人者となる。1896年、美術家として最高の栄誉である帝室技芸員に選出された。

今展で紹介するのは、初期から晩年に至る並河作品と、同時代に活躍した作家らによる七宝約70点。中国の有線七宝を取り入れ、釉薬(ゆうやく)や植線に改良を重ねながら、ぼかしや濃淡など、新たな境地を開拓していく歩みを概観する。

見どころは、各作品ごとに際立つ精巧さだ。入り口付近に置かれた「菊御紋章藤文大花瓶」は、高さ約36センチと並河の中では大型の作品で、青地に淡い白や薄紫の藤の花が全面に描かれている。花弁や葉の一枚一枚に細かな植線が施され、ガラスケース越しの肉眼では確認しきれないほどだ。

並河靖之「菊御紋章藤文大花瓶」(明治-大正期 並河靖之七宝記念館蔵)撮影・山崎兼慈

 

円形の器に鳳凰(ほうおう)を配した第1作「鳳凰文食籠」から、鮮やかな緑に桜とチョウが舞う「桜蝶図平皿」、背景にグラデーションを施した後期の「平安神宮風景文小蓋壺」など。このほかにも、文様を際立たせる艶のある独特の黒地肌は、世界で高く評価された。

最晩年の作では、淡い茶の背景に金の植線で山水画を描いた「七宝山水楼閣文香炉」が展示されている。水墨画のようなぼかしの技法を加え、「落ち着いた色合いと確かな技術から生まれた静寂の風景は、最後にたどり着いた表現の極み」(同館)とされる。

七宝以外では、国の登録有形文化財に指定された並河靖之七宝資料や、親交のあった日本画家たちの絵画作品を紹介。多岐にわたる展示は、花鳥や風景などのモチーフ別に鑑賞したり、文様の細部を比較しながら歩みをたどるなど、さまざまな楽しみ方ができる。

同館企画普及課の村木正英さんは「並河の作品をまとめて紹介する県内初の機会。細部にまでこだわった明治工芸の美しさと巧みな技を、会場で堪能してほしい」と話している。

会期は9月25日まで。午前9時半~午後5時。月曜休館(ただし9月19日は開館)。一般840円、満70歳以上420円、高大生630円、小中生320円。