古河市 美術館で篆刻体験 書と彫りが生む奥深さ

茨城新聞
2017年8月18日

書と彫りが生み出す赤色と白色の美。古河市には篆刻(てんこく)を専門とする全国唯一の美術館がある。同市中央町2丁目の篆刻美術館を訪れ、市内の教職員と一緒に「篆刻体験」に挑戦してみた。

▽魅力を発信
篆刻は14世紀頃に中国で誕生した。主に篆書(てんしょ)という書体を用い、加工しやすい石や木、竹などに詩句を刻んで、紙に押した朱色の印泥(いんでい)の書体を鑑賞する。江戸時代、独立(どくりゅう)と心越(しんえつ)の2人の僧によって日本に伝えられ、心越は徳川光圀が支援したことでも知られる。

同館は3階建て(現在は2階建て)の石蔵を改修した表蔵棟(153・41平方メートル)と2階建ての石蔵、裏蔵棟(173・52平方メートル)に五つの展示室があり、別棟に美術学習室がある。1920(大正9)年に建築された表蔵は、裏蔵とともに国の登録文化財だ。

かつて古河市内には、日本を代表する篆刻家、生井子華(いくいしか)氏(04~89年)と木に書跡を刻む「刻字」で有名な大久保翠洞(すいどう)氏(06~97年)がいた。市は95年、石蔵の活用と市にゆかりがある篆刻芸術を広げるため、同美術館を開館。企画展の開催や、生井氏を中心とした著名な篆刻家の作品や中国・秦時代の封泥などを展示し、市内外へ篆刻の魅力を発信している。

▽小3から気軽に
「篆刻は難しそう」。多くの人はそう思うだろう。同館はそんなイメージを和らげようと、美術学習室に用具を取りそろえて小学3年生から気軽に篆刻体験ができるようにしている。

17日は市内の小中学校の教職員13人が体験に参加した。同市では小学校で古文字の書道を授業で行うほか、中学3年生が卒業記念に篆刻作品を制作する独自の教育を展開している。

最初に篆刻の歴史や書体などを学んだ後、いよいよ篆刻に挑戦。指導は篆刻愛好家の団体「桃城印会」の3人が務めてくれた。青田石という15ミリ四方の石材に名前の1文字を彫ることができる。作るのは、文字の部分が白くなる「白文」。記者は彫る文字に、一番画数が多い「溝」を選んだ。

▽印を押し充実感
まずは彫りたい篆書体を紙に書く印稿(いんこう)作りから。印稿の書体は紙から石材に裏返しに写され、その文字に沿って彫っていくため、約2ミリの太さに書く。印稿を終えた後は、印床(いんしょう)という道具に石材を固定。写し終えた書体に、石を彫る印刀を恐る恐る当てた。

ゴリゴリっという感触とともに、石が細かい粉になっていく。かなり力を入れないと直線に彫れない。額に汗を浮かべながら一心不乱に彫り続けた。気が付けば1時間半が経過。完成した印を押すと、なんとか文字が浮かび上がり、充実感を得ることができた。

桃城印会の林正雄さん(91)は「篆刻には字を彫り、鑑賞し、印を押して利用する楽しさがある。昔の文字を彫ると、歴史や文字の奥深さも感じられる」と魅力を話してくれた。自分だけのオリジナルの印章を作る快感と、漢字の素晴らしさを体感できる篆刻美術館。ぜひ一度、来場してみてはいかがだろうか。

篆刻体験は1人から体験できる。初めての人は小中学生500円、高校生以上1200円。経験者は2センチ四方の石材に2文字が刻め、高校生以上1500円。要予約。問い合わせは、同館美術学習室(電)0280(21)1141

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