《青春2017夏 地域を元気に》(5)~(8)

上毛新聞
2017年8月7日

自主映画を製作 田中沙季さん(22)

事務職員として働きながら地元・桐生の魅力を映像で発信している。桐生市を中心に自主映画を製作するサークル「桐生ワイワイむ~びぃ部」で監督を務めたり演者として出演する傍ら、わたらせフィルムコミッション(FC)でも活動している。
小さい頃から邦画が好きだった。通っていた「カフェレストラン 観覧車」の店主で、同サークル発起人の松嶋好司郎さん(57)に誘われ、高校在学中の2013年春にサークルに加入した。昨秋公開された「花魁( おいらん )紺屋高尾異聞」では、運命の人と結ばれた主演の花魁役を熱演。監督としては失恋をテーマにした短編「加藤の恋」を演出した。
全国区の女優を目指して芸能事務所に在籍した時期があり、オーディションを受けて映画やドラマにエキストラとして出演した。「東京で有名になるよりも、お世話になった地元の人の役に立つ方がうれしい」と思うようになり、桐生に軸足を置くようになった。
FCでは撮影現場の警備やエキストラの管理などを担当している。一流俳優陣の演技を間近で見られるのは大きな刺激だ。映画関係者のロケハンに同行するときには地元の名所をアドバイスする。梅田を流れる忍山川周辺は「青春映画などで夏場に高校生が自転車で登下校するシーンにお勧め」と話す。
なれないものになれる女優を楽しみ、監督としては脚本のメッセージが観客にしっかりと伝わるような演出を心掛けている。
「女優も裏方の仕事も両方楽しい。映像作品で桐生を見て、桐生に来てほしい。感性を生かして表現する仕事をしていきたい」

「地元桐生で表現する仕事をしていきたい」と話す田中さん

 

ウエディングプランナーの卵 勝見玲香さん(18)(高崎商科大短期大学部1年)

山名八幡宮(高崎市)の境内。高崎商科大短期大学部の関係者が見守る中、緊張気味のはかま姿の新郎と白無垢(むく)の新婦が愛を誓い合った。
同大ホテル・ブライダル・ビューティーコースの1年生20人が企画した仮想の神前式の一幕だ。式に続いて披露宴も行われ、だるま型ケーキを提供したり、地場産の日本酒で乾杯した。同級生が出すさまざまなアイデアをウエディングプランナーとして調整し、タイムスケジュールに落とし込んだ。
中学生の時に結婚式場で職場体験してウエディングプランナーに興味を持つようになった。新郎新婦との打ち合わせやドレスチェック、会場の準備など、生涯を共にする男女の晴れの舞台を切り盛りする姿を間近に見て、やりがいのある仕事だと感じた。
仮想の神前式と披露宴は、県内の結婚式場の従業員でつくる「ぐんまウエディングチーム」のメンバーや同級生の協力で予定通りに進行したが、プランナー業務の大変さが身に染みた。披露宴でのイベントを企画する過程で、食や自然、世界遺産といった群馬の魅力を再発見できた。県内の式場では式を挙げたくないと話していた同級生の中には「地元でやるのもいいんだね」と考えを変えた人もいた。
市内の結婚式場でサービススタッフとして働き、現場も学んでいる。「現在のブライダルはしっかりと地域のことを反映できていないのではないか。プランナーになったら新郎新婦の話を親身になって聞き、生まれ育った場所をゲストに知ってもらえるような式を提供したい」と夢を語る。

仮想の披露宴を切り盛りする勝見さん

 

 

まちづくりサークル会員 小林直行さん(20)(前橋工科大3年)

富岡市の中心市街地で5月に開かれた、住民有志の手作りイベント「げんきフェスタ」に、前橋工科大のまちづくりサークルの一員として参加した。中心となって企画、運営した工作体験ブースは大人気だった。
新潟県長岡市出身。人脈をつくろうと学内最大規模のサークル「えん」に入った。入会してすぐ、先輩に連れられ初めて訪れた「げんきフェスタ」で、住民が支え合い、一体となって盛り上がる様子を魅力的に感じた。
市街地を歩くと心地よい「ご近所感」があった。住民同士が顔見知りで積極的にコミュニケーションしているのに気付き、「人と人のつながりが深い。残さなくてはいけない街の姿」だと思った。
3回目の参加となる今年のげんきフェスタは、富岡市内で開かれる準備会議に出席できない時はフェイスブックで進捗(しんちょく)状況を報告するなど、住民らと連絡を密に取った。仲間の学生への指示も的確だった。その姿に「えん」部長の寺田遥平さん(22)は「完璧。頼もしい存在」と信頼を寄せる。
フェスタで出展したのは、正方形の透明なプラスチック板に絵を描いたり折り紙を貼ってもらう「ステンドグラスの制作体験」ブース。子どもの創造意欲をくすぐり、順番待ちが出るほどの人気ぶりだった。
建築物を通じて絆の強いコミュニティーをつくるのが将来の夢だ。「建築は建物を造るという印象が強いが、生活をつくる建築家になれるよう、これからもまちづくりの活動に参加して大切なことを吸収したい」と話す。

「ステンドグラス」を手に談笑する小林さん(右)

 

 

伊勢崎銘仙の着物モデル 堀川桃佳さん(18)(群馬大1年)

半世紀ぶりに復活した伊勢崎銘仙「併用絣(がすり)」の着物のお披露目会にモデルとして出演し、約150人の前で振り袖姿を披露した。「この着物を初めて着るのが自分だと思うと感動した」と振り返る。
伊勢崎銘仙と出合ったのは四ツ葉学園中等教育学校3年の時。上毛かるたで「銘仙」の言葉を聞いたことがある程度だったが、伝統文化を学ぶ授業で初めて着物を着付けてもらい興味が湧いた。
ニューイヤー駅伝の中継や、東京・銀座で行われた世界文化遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」のPRなど、着物を着用するイベントに積極的に参加した。毎回違う色や柄の着物に身を包むのが純粋に楽しかった。すっかり伊勢崎銘仙のとりこになった。
併用絣の復活プロジェクトに取り組んだ「いせさき銘仙の会」代表世話人の杉原みち子さんや会員の金井珠代さんが、伊勢崎銘仙の保存や普及に懸ける熱意も目の当たりにした。自分が楽しむだけではなく、多くの人に魅力を伝えたいと考えるようになった。
市教委が昨年製作した伊勢崎銘仙の歴史や技法を紹介する映像作品に出演したのも、その思いがあったからだ。4種類の着物を何度も着替えながらの真冬の撮影は約12時間に及んだが、「引き受けたからには最後までやろう」と乗り切った。約20分間のDVDは市内の全小中学校と県内の絹関連施設で活用されている。
色鮮やかで柄の種類が多い伊勢崎銘仙は、特に若者や外国人に「レアで新鮮」と評価されると感じる。「進学したばかりで環境に慣れるのに精いっぱいだが、着付け体験会など伊勢崎銘仙を紹介する機会を大学内でつくりたい」と話す。

滝をデザインした併用絣のひとえの着物を着る堀川さん
(おわり)