水戸市民会館開業 建築家・伊東豊雄さん、設計への思い 「市民交流の場」期待 芸術館、百貨店と親和性

茨城新聞
2023年7月3日

水戸市の中心市街地に7月2日、新しい「水戸市民会館」がオープン。旧会館は東日本大震災(2011年)の被害で休館となり、再開発事業の一環として、旧水戸京成百貨店跡地(同市泉町)に建てられた。近接する水戸芸術館と京成百貨店とは機能・デザイン面で高い親和性が図られ、3施設一体による、にぎわい創出と市民交流に期待がかかる。設計に携わった建築家の伊東豊雄さん(82)に、新会館への思いと公共建築の在り方などを聞いた。

■二つの顔つなぐ

水戸市民会館の設計で、伊東さんが方向性の主軸に据えたのが、二つの施設との関係性だった。北側で接する水戸芸術館と、南側の国道50号を挟んで向かい合う京成百貨店。「アートの発信拠点」と「商店街の旗艦」の間に位置することに、「それぞれの顔を受け止め、滑らかにつながるよう機能やデザインに知恵を絞った」と語る。

水戸市民会館の模型を前に、同館の設計に込めた思いなどを語る伊東豊雄さん=東京都渋谷区

 

水戸の街の印象として、偕楽園や旧水戸藩校だった弘道館、水戸城跡の空堀などを挙げ、「歴史的息吹にあふれる地域」と評した。特に木造の弘道館にひかれたといい、設計では「城下町」や「和」といった水戸らしさをイメージした大規模な木造を構想した。

ただ2千席の大ホールを備える建物の木構造は困難だったため、中央部をコンクリートで固め、周辺部を木工で表現。さらには木構造は露出できないため、全面ガラス張りの外観に至った。

■街の気配

周囲と溶け合う工夫として、商店街に面する南側部分にエントランス広場を設けた。風が通る屋根付きの広場という位置付けで、雨が降ってもマーケットやミニコンサートなどができる。奥に進むと、最上部の4階まで吹き抜けた木組みの大空間が広がり、大型の催しにも対応する。

伊東さんは「向かい合う百貨店とも行き来が容易にできるので、二つの施設の間で大きな相乗効果が生まれることでしょう」と期待を寄せる。

北側の水戸芸術館について、同館を設計した先輩建築家の磯崎新氏に敬意を示し、「芸術館の芝生広場に強い軸線を感じ、しっかり受け止めることを意識した」と説明。「1~4階に配置した大ホールのホワイエからは、ガラス越しに芸術館広場や街の気配を感じ取れるようにした」という。

■自然との調和

伊東さんは、建築の仕事に関わる中で、自然や周囲の環境との調和に重きを置いてきた。

「古くから日本の建築は周りの自然と親しい関係を保ち、建物と連続的につながる思想を持っていた。明治維新以降、近代化の名の下、建物と自然を切り離し、技術の力で自然を克服する姿勢に転換し、それが今も続いている」

最上階まで吹き抜けた「やぐら広場」(水戸市提供)

「建築を学び始めた頃、近代化の持つ可能性や未来都市の輝く姿に期待を寄せていた」と振り返り、「大阪万博が開かれた1970年ごろから、近代化がもたらす矛盾が見え始め、自然と結びつく建築に回帰した」と明かした。

■大らかさ

数多くの公共建築を手がけてきた伊東さんは、大都市と地方都市の違いを肌で感じている。

近年の大都市の建築を「過密になり、管理主義が行き過ぎている」と説き、「高層化の進展によって全てが均質化している。極端に言えば南も北もなく、低層も高層も同じ扱いになり、結果的に人工環境に頼っている」と疑問視する。

対して、地方都市の建築を「大都市に比べて大らかさがある。建物の中が細分化されず、人の動きを感じ取る余裕がある」と分析する。

公民館の料理教室を例に挙げ、「会議室で話し合いを終えた人が、調理室のそばを通った際、音や匂いが気になり中の様子を眺めたりする。そこで生まれるコミュニケーションこそ、むしろ必要なのでは」と力を込める。

■バトンタッチ

伊東さんは、オープン後の水戸市民会館について「カジュアルな存在になってほしい」と切望する。「大ホールのイベントは毎日は開かれない。普段から気軽に足を運んでほしい。子連れのお母さんの憩いの場になったり、学生さんが勉強や打ち合わせの場に使ってくれたらうれしい」

仙台や岐阜などで手がけた公共建築と比較し、「水戸市民会館は空間的に余裕があり、新しい家具や設備が入りやすい」と話し、「公共建築に完成はない。今後は市民にバトンタッチし、生き生きとした施設に育ててもらうことを歓迎します」と呼びかけた。

★水戸市民会館

地上4階・地下2階、高さ約34メートル、延べ床面積約2万3232平方メートル。鉄筋コンクリート造り(一部鉄骨)と木造造り。2千人収容の大ホールを中心に、多機能ホールや会議室、展示スタジオなどを備える。ほかに最上階まで吹き抜けた木組みの「やぐら広場」、大窓からの日差しを受けて勉強や読書ができる「ラウンジギャラリー」などがある。

■いとう・とよお

1941年ソウル生まれ。長野県で育つ。71年に独立。主な建築に「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(岐阜市)、「台中国家歌劇院」(台湾)など。2012年ベネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞、13年プリツカー賞。22年に日本芸術院会員に選出。茨城県関係では、日本建築家協会新人賞(1984年)を受賞した「笠間の家」(81年)などがある。