波山に導かれた彩磁の美 佐野市吉澤記念美術館 7月4日まで特別企画展 斉藤勝美さん(宇都宮)40年を通観

下野新聞
2021年5月29日

 豊かな色彩と緻密な彫刻表現で命を吹き込まれた鳥や花々は、どれも愛らしく美しい。佐野市吉澤記念美術館で開催中の特別企画展「斉藤勝美(さいとうかつみ)-ただひたすらに彩磁をもとめて」は、近代陶芸の先駆者板谷波山(いたやはざん)(1872~1963年)に私淑した宇都宮市の陶芸家斉藤勝美さんの40年を通観する。波山作品に導かれ、独学で生み出された作品約80点が並ぶ会場は、みずみずしい色と清らかな雰囲気に満ちている。

 出光美術館学芸員だった学習院大の荒川正明(あらかわまさあき)教授(美術史)は、斉藤さんを「彩磁の古典から現代への橋渡し役」と評する。波山は陶芸で自分を表現した最初の人ともいわれるが、その技法はベールに包まれていたという。

 益子で陶芸を学んだ斉藤さんは、21歳のころ波山作品が紹介された書物と出合う。益子焼とは対極にある磁器の冷厳な造形や端正な彫刻、淡く透き通るような色彩に、「生涯の仕事」を見つけ、以来、波山が残した作品や陶片、わずかな記述を頼りに、材料を探し、テストを繰り返した。

 同展が定義する「彩磁」とは、「水溶性顔料を中心とする釉下彩(ゆうかさい)」と「彫文」を併用した技法。「薄肉彫(うすにくぼり)」と呼ぶレリーフ状の彫りと柔らかな釉下彩、「葆光(ほこう)釉」と名付けたマット釉を施した波山の作品群は、近代陶芸が到達した最高峰の一つと目される。

 波山の技法や気品を絶対的な指標としつつ、自分の作品世界をどう作り上げるか-。吉澤記念美術館の末武(すえたけ)さとみ学芸員は、斉藤彩磁の最も卓抜した点として、幅広い色が安定していることだと解説する。

 水溶性顔料は、着彩直後から素地に染み込み、見えないまま広がり続ける。隣り合う色が混ざるのを防ぎ、重ね塗りで深みを出すには、防染、色止め焼成を繰り返す。一つの作品に4、5本の筆をつぶすというほど色を使う斉藤さんは6回の焼成も珍しくない。成形・彫刻で神経をとがらせ、さらに焼成リスクが重なる彩磁。取り組む作家が少ないのも肯ける。

 同展は、緑の発色は得たものの釉薬の不安定さに彫文との両立を阻まれたという「彩磁夏草文大皿」など初期作品から、有機的な造形に挑戦した「葆光彩磁香炉『掌華(しょうか)』」、三方に異なる葡萄(ぶどう)文を施した近作「葆光彩磁葡萄文大壷」まで、「斉藤彩磁」の深化が見てとれる。

 「生まれ変わってもこの仕事をするか、波山先生に聞いてみたい」という斉藤さんは、自身は「もう十分」と苦笑する。だがその工房には、かれんなナニワイバラが彫られた壷が、次の工程をじっと待っている。

 7月4日まで。(問)同館0283・86・2008。
 【プロフィル】さいとう・かつみ 1958年生まれ。宇都宮工業高卒業後、県窯業指導所へ。益子の製陶所などを経て、81年宇都宮市の自宅に築窯。映画「HAZAN」(2004年公開)に使われる波山作品の制作や技術指導を行う。

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