現実と虚構 一瞬捉える 上田薫とリアルな絵画展 茨城県近代美術館 

茨城新聞
2021年11月29日

身近なものの一瞬の姿を捉え、肉眼で見ているかのように緻密に描くスーパーリアリズム。割った殻から黄身と白身が滑り落ちる「なま玉子」シリーズなどで知られる上田薫(1928年~)を紹介する企画展「上田薫とリアルな絵画」が、水戸市千波町の県近代美術館で開かれている。アイスクリームやサラダ、シャボン玉、泡など、本物そっくりに描かれた作品の数々が並び、現実と虚構が入り交じる不思議な世界が楽しめる。会期は12月12日まで。

上田薫「サラダE」(2014年、個人蔵)

 

東京で生まれた上田は、東京芸大絵画科で油画を学び、卒業後は教諭、グラフィックデザイン会社設立などを経て絵画制作を再開した。抽象から写実へと作風を転換し、73年の「アイスクリーム」で、スプーンですくったアイスクリームが溶けて下に落ちる一瞬を表現。流動的な物体を描く試みは、75年から始まる「なま玉子」へとつながり、注目を浴びた。

85年から93年にかけ、茨城大学で教壇に立った。制作拠点を茨城に移し、91年から取り組んだ「流れ」シリーズは、県内の川の中に足を踏み入れ、撮影した写真を基に描かれた茨城ゆかりの作品だ。

リアリズム絵画の制作手法はいくつかある。上田は撮影した写真をプロジェクターで大画面のキャンバスに投影し、輪郭を写し取って彩色している。決定的瞬間を撮影するため、「玉子」シリーズでは100個以上の卵を割ったという。

会場には「男の靴」(71年)から、「アカンサスC」(2016年)まで、上田の代表的なシリーズに加え、現代作家らによる多彩な作品を展示している。「リアルな絵画」を共通項としながら、サブカルの要素を取り入れた現代的な作品や、だまし絵と呼ぶような虚構の世界、物を照らす光のありようなど、それぞれが追求する「リアル」に迫る。

同館の乾健一学芸員は、「時間に伴い形を変えるものに関心を寄せ、一瞬を捉えたインパクトの強い作品ばかり。上田とともに、現代の作家たちのリアルな絵画表現を楽しんでほしい」と話した。

午前9時半~午後5時。一般870円、満70歳以上430円、高大生610円、小中生370円。月曜休館。

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