《青春2017夏 地域を元気に》(1)~(4)

上毛新聞
2017年8月7日

広報まえばし記者 遠藤敦美さん(21)(県立女子大4年)

大学でフリーペーパー部に所属し、昨年4月から偶数月発行の「広報まえばし」の特集面で企画から取材、編集に携わっている。前橋市が公募した市民編集委員・ワカモノ記者に応募した。「前橋で生まれ育ったけど知らないことがまだまだある。市民に伝えたい」と応募した動機を話す。
隔月で開かれる編集会議で、市の担当者や他のワカモノ記者と企画のアイデアを出し合う。各記者がそれぞれの視点で原稿を書き、担当者にメールで送る。編集された紙面のゲラ刷りを受け取ると、レイアウトや写真の使い方について担当者に意見を伝える。やりとりを重ねて紙面が出来上がる。
以前の広報誌は高齢者や子ども向けの情報が多く、若い世代に身近な話題が少ないと感じていた。記者になってから取り上げた話題は、上毛電鉄のサイクルトレインやまちなかのシェアハウス、アーツ前橋を楽しむ方法など。若者ならではの視点で“読みたくなる広報誌”の製作に力を注いできた。
アーツ前橋の記事は特に思い入れがある。発案から取材、編集と全てに関わった。併設するカフェのメニューや、手作り品がそろうミュージアムショップを紹介。記事を読んだ友人から行ってみたくなったと言われ、やりがいを感じた。「自分の周りでアーツ前橋に行ったことがある人がいなかった。敷居の高い印象がある美術館の魅力を、違う角度から伝えたいと思った」と振り返る。
県内での就職を希望している。社会人になってもワカモノ記者は続けるつもりだ。「自転車が好きなので赤城山ヒルクライムを取り上げたい」。“自転車のまち”を市民目線で発信できたらと考えている。
◇   ◇
地域を元気にしようと汗を流す若者を紹介する。

「決まった文字数で情報を伝えるのは大変だけど、掲載されるとうれしい」と話す遠藤さん

 

町民劇団員 赤井那帆さん(14)(邑楽中3年)

通学する邑楽中の近くで建設中の邑楽町中央公民館が、日ごとに形をなしていく。地上2階建て、延べ床面積3100平方メートル。メインの木のホールは500席だ。真新しいホールのステージに立つ自分の姿を想像すると、胸が高鳴る。来年度の完成が待ち遠しい。
演劇との出合いは中学1年の時。「何となく面白そう」と演劇部に入ったが、演じる楽しさにどんどん夢中になっていった。
昨年12月に長柄公民館で開かれた演出家・劇作家の平田オリザさんの講演会は迷わず参加した。今年2月からの演劇ワークショップも新鮮だった。講師の一人、同町出身の劇団青年座俳優、大竹直さん(40)が呼び掛けた邑楽町民劇団に胸が躍った。5月、町民劇団の初会合では演劇部の顧問だった先生と再会、年齢も仕事もさまざまな人が集まり、劇を作り上げることが楽しみになった。
団員は現在17人。来年度の初演に向けた脚本作りが始まった。第一歩は、それぞれの経験から面白そうなエピソードを基に「どんな配役がいればもっと盛り上がるか」を話し合い、ストーリーを膨らませること。脚本らしくなると、実際に演じてさらに議論し、修正を加える。自前の音響機器を持ち込んで効果音やBGMについて語るメンバーもいる。「出来合いの台本じゃなくて、ゼロから舞台を作っていくのが、ものすごく新鮮」と目を輝かせる。
中学の演劇部での活動は、26日の舞台が最後になる。しばらくは高校受験優先の生活になるが、高校生になっても演劇を続けるつもりだ。
「大竹さんは演劇がやりたくて、この町を出たそうだけれど、私はこの町で演劇をする機会に恵まれた。町民劇団の一員として、演劇で町を盛り上げていきたい」

脚本やせりふについて議論する赤井さん

 

沼田・薄根太々神楽踊り手 石橋佳歩さん(15)(群馬高専1年)

沼田市の重要無形民俗文化財に指定されている「薄根太々神楽」の踊り手として活躍している。地元の薄根地区で100年以上の歴史のある伝統芸能を、若い人にも楽しんでもらおうと練習に励む。
幼稚園児の頃、太々神楽で太鼓を担当する祖父を見て、自分もやってみたいと興味を持った。沼田薄根中2年の冬に薄根太々神楽硯田保存会の片野日出夫会長に誘われ、舞台に上がるようになった。
神様の前で地域の五穀豊穣(ほうじょう)を願う舞を披露する大役に、「自分に務まるか不安だった」と話す。緊張の初舞台は昨年3月。稽古不足からミスを犯し、もっと練習したいと思うようになった。地域の伝統を守る責任も感じた。
両親は地元で92年続く酒屋を営んでいる。神楽の活動を続けるうちに近所の人に声を掛けられ、褒められることが増えた。中学の友人が舞台を見に来て応援してくれた。
人前に積極的に出る性格ではなかったが、神楽を通して変わった。中学3年の文化祭では劇に出演。いじめを題材にした脚本を共同で執筆し、演出にも携わった。「太々神楽の経験が生きてスムーズに進められた」と振り返る。
中学卒業時、担任から演劇の才能があると褒められたのをきっかけに、進学した群馬高専で演劇部に所属している。
部での担当は照明係で、光と音楽の使い方など現代劇の長所を神楽に持ち込みたいと考えている。同世代の人に最後まで神楽を見てもらい、1人でも多くの人に神楽の魅力を知ってほしいと願っている。

「同年代に神楽を楽しんでもらいたい」と練習に励む石橋さん

 

火とぼしボランティア 松谷昇樹さん(15)(南牧中3年)

南牧村の夏の風物詩「大日向の火とぼし」は、400年以上受け継がれる県内最大級の火祭り。火の付いたわら束が大日向橋の欄干で豪快に振り回される様子を、大勢の観光客が橋下を流れる南牧川の川辺で見上げる。中学1年の時から毎年、祭りの日限定で出店される売店「南中(なんちゅう)売店」で売り子をしている。
売店では南牧中の生徒有志が浅漬けや煮卵、おにぎりなどの販売ボランティアをしている。大日向橋は自宅に近く、川遊びに行く時の通り道で身近な存在。人であふれ返り、いつもと雰囲気が一変する、祭りのときの橋が好きだ。
売り子をしていると観光客に話し掛けられ、村の魅力を再発見できる。煮卵は自然農法にこだわった村の農家が生産した鶏卵を使っている。しそ巻きは村の女性たちが一つ一つ手作りするものだ。村自慢の逸品を説明するたびに「南牧を知ってもらえている」と実感する。
生徒会長になった今年はやる気満々だ。目標は来場者とあいさつするだけでなく、自分から話し掛けること。山に登ったり川に飛び込んだりと、日ごろから体いっぱいに体感している南牧の自然を自分の言葉で伝え、祭りを訪れる人が普段の南牧を楽しもうと再び足を運ぶように村をPRするつもりだ。
「人がたくさんいると、その空間やいる人みんなが楽しくなる」と感じる一方、静かな大日向橋もゆっくり時間が流れるようで好きだ。「将来は、橋の上でわら束を振る回し手になりたい」と夢を語る。

火とぼしを描いた絵の前で「南牧の自然をPRしたい」と話す松谷さん