《まち里歩き 探検隊》赤城南麓 懐かしい時

上毛新聞
2019年1月26日

澄み切った空気で、くっきりと雄大な姿を見せる冬の赤城山。その南麓ほぼ中央に位置する前橋市大胡地区は、随所で歴史ロマンと古き良き時代の懐かしさが残る。大胡駅前公園を夕暮れ前に出発し、日没まで周辺を見て回った。

目に飛び込んだのは同公園のオランダ型風車。道の駅「大胡ぐりーんふらわー牧場」と同じ構造で、大きさは3分の1。旧大胡町時代の1999年に完成し、そばに設置された噴水と共に地元のランドマークの一つになっているようだった(❶)。


「もうないの」「ありますよ」―。公園を出ると、遠藤とうふ店(❷)の店先で切り盛りする遠藤容子さん(65)と常連客が親しげに会話していた。かための食感が特徴の木綿豆腐や香ばしい油揚げ、厚揚げを作り続けて約90年。無添加で昔ながらの製法と懐かしい味は、地域住民に根強く支持されている。弟、定志さん(61)と姉の順子さん(67)との3人による家族経営で、「気軽に寄ってもらえる店であり続けたい」と容子さん。夕暮れ時、昭和の下町を思わせるのどかな時間が流れていた。


赤城山を眺めながら北上しようと、視界が開けた荒砥川沿いへ。大川橋の西側交差点脇で石碑を見つけた(❸)。達筆で書かれた「赤城山南面登山口」の文字。1957年、当時の知事、竹腰俊蔵書と記されていた。赤城南麓の玄関口に立っていると実感しつつ、川沿いの県道大胡赤城線を進んだ。


交差点を曲がってほどなく徳川家康家臣で初代大胡藩主、牧野康成の菩提(ぼだい)寺の養林寺に着いた。創建は1590(天正18)年で、境内に家康の供養塔や牧野氏家臣らの無縁仏が眠り、桃山期の特色を残した山門や江戸後期とされる大胡城絵図が残っている(❹)。北條哲成住職(70)は「近年は御朱印巡りの若者が増えた」と教えてくれた。


大胡駅に戻る途中、牧野氏が城主を務めた大胡城跡に立ち寄った。高台にある本丸周辺で、懸命に走る大胡中陸上部の生徒と擦れ違った(❺)。

歴史的な名所が地域に溶け込んだ日常風景を目にした。日が落ちて大胡駅に着くと、寒空の下、駅舎はイルミネーションで輝き(❻)、家路を急ぐ会社員や学生を照らしていた。

【メモ】赤城山に向かってやや勾配のある約3.5キロ。荒砥川沿いの県道大胡赤城線は大型車両も通るため、道路脇を歩く際は注意。冷たい風と大胡城跡に続く坂道が少し厳しいので、防寒対策や動きやすい服装で歩きたい。

【ちょっと一息】
◎愛される揚げたて
神尾食肉店(前橋市堀越町)
前橋市役所大胡支所近くの精肉店。揚げたての手作り総菜が味わえる。ジャガイモ本来のうま味を生かしたコロッケ(税別70円)や地元産豚肉を使ったメンチカツ(90円)は「大胡のソウルフード」として幅広い世代に長年愛されている。


創業は1952年。「代々受け継いだ製法は変えていない」と3代目店主の神尾広一さん(70)。総菜担当の妻の広子さん(66)は「子どもの時に食べた人が、懐かしいと大人になって来てくれることも多い」と話す。
ハムカツ(70円)も人気。春雨、ポテトのサラダ(各145円)もある。
午前10時半~午後7時。日曜定休。問い合わせは同店(☎027・283・2008)へ。

【本日の探検隊員】
◎変わらずにいてほしい
前橋支局 安本渉記者
前橋市大胡地区はこぢんまりした雰囲気で居心地が良く、ついつい取材先で長居をしてしまった。「何もない寂しい所だ」と自虐的に町を“PR”してくれる人が多かったが、その控えめながらも気さくな人柄に好感を持った。時代とともに町は移りゆく。だが、住民や地域の醸し出す親しみやすさは不変でいてほしい。