《水と生きる》芳ケ平湿地群 貴重な生態系 保全

上毛新聞
2017年8月24日

国道292号志賀草津高原ルート沿いの草津白根レストハウスから徒歩で約1時間。車両で立ち入ることのできない湿地帯は、夏は雄大な緑の中を心地よい風が吹き抜け、冬には、白銀へと表情を変える別世界だ。
2015年5月にラムサール条約に登録された芳ケ平湿地群。中之条町と草津町にまたがる酸性の水質を持つ湿原や草原が、草津白根山(標高2160メートル)の北面に広がる。登録エリアは、強酸性の水辺に育つ希少なコケの群生地チャツボミゴケ公園や大平湿原、観光名所として知られる「湯釜」なども含まれている。
湿原内にある赤い屋根が目印のレストハウス「芳ケ平ヒュッテ」。施設の管理を担い今年で19年を迎える新堀研二さん(66)は一年を通じてこの場所で生活するが、当初からの環境の変化を実感しているという。地元住民の地道な活動で、貴重な動植物を巡る環境が守られている。
標高1500メートル以上の高原地域に暮らし、浅間山と北アルプス周辺でしか見られないという県の天然記念物、ミヤマモンキチョウ。今は羽ばたく姿を湿原内のあちらこちらで見られるが、かつては個体数の減少が叫ばれていた。
原因は、チョウの食樹となる高山植物「クロマメノキ」の減少。ブルーベリーのような実がなり、ジュースなどにして楽しめる。首都圏から採集に訪れるハイカーもいたといい、乱獲がが問題になっていた。
貴重な自然を守るため、新堀さんは住民らで組織する「白根山系の高山植物を護る会」の会員とともに、クロマメノキの保護活動を開始。粘り強く啓発活動を続けた結果、採集者は徐々に減り、ミヤマモンキチョウの個体数増加につながった。外来種「セイヨウタンポポ」の除去にも力を入れ、春先に湿地群を埋め尽くしていた黄色は減少してきた。
今年は草津白根山噴火警戒レベル引き下げもあり、立ち入り規制範囲が縮小。地元観光関係者は湿地群の本格的な誘客スタートの年と捉える。ハイカーが増えれば新たな環境問題も懸念されるが、住民は粘り強く呼び掛けを続けていく方針だ。貴重な動植物を保護しつつ、誘客に向けた地域資源活用への模索は続く。

【メモ】芳ケ平湿地群は2015年6月、ウルグアイで開かれた締約国会議(COP12)で本県3例目のラムサール条約に認定。草津白根山の火山活動と密接に関わり、湿原内は酸性の水質。地下水も豊富で、ワタスゲやミズバショウが楽しめるほか、エリア内の塔の池(標高約2150メートル)は、日本固有種のモリアオガエルの最標高繁殖地としても知られている。

 

※写真=国道292号から望む芳ケ平湿原。酸性の湿原が独特の自然環境を形成している

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