大晦日の夜、悪口を叫ぶ100人超の大集団… 栃木・足利の山奥で続く“奇祭”の全容に迫った

下野新聞
2024年1月8日

日本三大毘沙門天の一つと言われる栃木県足利市大岩町の大岩山毘沙門天(最勝寺)で12月31日深夜、江戸時代から続く奇祭「悪口(あくたい)祭り」が行われた。参加者は1年の厄を落とそうと提灯を手に「ばかやろう」などと言いながら、本堂までの約1.7キロを歩いた。普段は慎むべき「悪口」を堂々と言える祭りとはどのようなものなのか。記者が実際に参加してみた。

祭りは疫病が流行していた江戸末期、架空の動物バクに、この悪夢のような現実を食べてもらおうと「バク様」と祈ったのが始まりとされる。祭りでは「バク様」から転じた「ばかやろう」をはじめ、どんな悪口を言っても良いが、泥棒など「ぼう」の付く言葉は不可という。基本的に誰でも自由に参加できる。

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常連が「例年より暖かい」と口をそろえたこの日は100人超が集まった。

祭りを前に、午後10時半からは「悪口大声コンクール」が開かれた。声の大きさを騒音測定器で計測し、上位10人には商品が贈られる恒例イベントだ。

今回は市内外から60人がエントリー。「ばかやろう」のほか「酒飲ませろ」「もっと先輩に気を使え」などの言葉が暗闇に響いた。

参加した記者も足利に対して「夏暑過ぎるだろ、ばかやろう」と不満をぶつけた。入賞者の記録には及ばなかったが、今夏が快適な気候になれば万々歳だ。

同11時を回り、いよいよ祭りは本番へ。参加者は先端に「獏(ばく)」と書かれた木札などを手に、麓を出発した。沼尻了俊執事(35)の吹くほら貝に乗せて「コロナなくなれ」「チャリ(自転車)盗むな」「何なんだ、この祭りは」などの悪口が次々と山あいに響く。

記者も悪口を言おうとしたが、恥ずかしさが勝り口にできない。しかし本堂の灯(あか)りが見えたところで、ようやく勇気を出し「ばかやろう」と言ってみた。すると爽快な気分が癖になり、気付けば本堂まで何度も「ばかやろう」と繰り返していた。

本堂へは日付が変わる間際に到着。間もなく新年の到来を祝うと、木札を焚(た)き上げて祭りは閉幕した。

その後、額に注がれた酒を飲み開運を願う「滝流しの式」も行われた。両方に参加した群馬県伊勢崎市、会社員倉林俊勝さん(50)は「『一声入魂』の思いで『ばかやろう』と叫び、交通安全などを祈りながら酒を飲んだ」と話した。

暗闇で悪口を言う非日常な体験を通じ、記者はすがすがしく新年を迎えることができた。沼尻執事も「一言目さえ言ってしまえば、楽しい時間が待っている。身構えず気楽に来てほしい」と参加を呼びかける。

少し気が早いが、今後1年間でたまるであろう鬱憤を、ぜひこの祭りで晴らしてみてはいかがだろうか。

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