《未開の地を行く 稜線トレイル調査(上)》手付かずの自然 出迎え

上毛新聞
2016年9月7日

ㅤ新潟、長野両県境との稜線(りょうせん)に計画している約100キロのロングトレイル「ぐんま県境稜線トレイル」(仮称)のうち、群馬県は9月2~4日、登山道が未整備の白砂山(しらすなやま)(中之条町)―三坂峠(同)間約9キロの現地調査を実施した。県職員や山岳団体でつくる調査隊(隊長・佐藤光由県山岳連盟理事長、10人)が調査した同区間に、前後の登山道を含め計約20キロの行程の3日間を、同行取材した。(白川裕登)

【中之条町の白砂山―三坂峠間】

ㅤ野反湖(中之条町)北の登山口から歩き始め、白砂山への登山道でテント泊。同山頂を過ぎた未整備区間に入ると、手付かずの自然が調査隊を迎えた。衛星利用測位システム(GPS)やコンパスを頼りにルートを進みながら、未整備区間の山中でもう1泊。悪天候でルートが分からなくなりそうになるなど消耗する体力と戦いながら、三坂峠に着いた。

ㅤ一行はGPSや写真、動画で状況を記録した。ロングトレイルは自然や文化、歴史などを楽しみながら歩くことができる道として、国内外で人気が高まっている取り組みだ。稜線コースとしては全国最長となる約100キロのコースを実現しようと、県は2017年度にも約9キロ区間の整備に着手する意向。調査結果を基に水場、テント設営場所や避難小屋の設置を検討する。

【「この先危険!」看板の先へ 濃霧の中「やぶこぎ」】

ㅤ白砂山(2139メートル)に登った経験がある。晴れていれば、頂上から稜線が長く続く絶景を見られる。稜線を「歩いてみたい」と思う登山者は多いはずだが、「この先危険!」の看板が立ちはだかる。まだ見ぬ景色に出合えることを楽しみに、今回の調査に同行した。

ㅤ初日(2日)の行程は野反湖の登山口から堂岩山手前の水場までで所要時間は約2時間。もっと距離を稼いでおきたいところだが、未整備区間に水場があるか不明なため、水場をゴールにした。隊員の多くは経験豊富なベテランだ。

ㅤひんやりとした風が吹き、気持ちよく登山口を後にした。50分ほど歩いて地蔵峠で休憩した。登山道から少し離れた所に地蔵があり、「無事に帰れますように」と手を合わせた。

ㅤ余裕を残したまま水場の近くに着き、夕食をゆっくりと楽しんだ。夜になって雨が降り始め、草木を押しのけて進む「やぶこぎ」が大変になるだろうと不安に思った。簡易テントの中で寝たが、結露と浸水で寝袋がぬれ、体が冷えてほとんど眠れなかった。

ㅤ3日朝には雨が上がり、2日分の水を補充して出発した。未整備区間に着くと、濃い霧がかかっていた。最大の楽しみが早くも奪われた。

ㅤ午前8時半、隊長の佐藤光由さんは「この荷物の重さでやぶこぎはきついかも」と言いながら9キロ続くやぶに足を踏み出した。腰の高さほどあるササは雨でぬれて滑りやすく、すぐに下り斜面で転んでしまった。想像を圧倒的に超える厳しさに全身の力を入れ直した。

ㅤやぶに入って1時間後、ササから手を離したら落ちてしまいそうな急坂をやっとの思いで下った。「こんな急なはずはない」と隊員の声。GPSやコンパスで確認すると間違っていたことが分かり、急斜面を上って戻った。「こんなことが続くのか」と不安になった。

ㅤ同11時10分、上ノ間山(かみのあいやま)(2033メートル)に到着した。「GWV ’76」と書かれた看板があった。1976年に群馬大ワンダーフォーゲル部が立てたものだろう。隊員は「開通するまでは来られないから記念に」と山頂を示す三角点を触りながら記念撮影した。

 

【写真】上ノ間山と忠治郎山の両山頂間の稜線を進む調査隊=3日午後0時20分ごろ