「満州移民の父」描く アーティスト・弓指さん個展
「満州移民の父」と呼ばれる前橋市出身の旧日本陸軍の軍人、故東宮鉄男(かねお)の足跡を絵画でたどった個展が相模原市のギャラリー「スペースくらげ」で開かれている。26日は大叔父に当たる鉄男を含め、満蒙(まんもう)開拓の歴史を研究している東宮春生さん(69)=みどり市=が群馬県から訪れ、激動の時代を生きた鉄男らの歩みに思いをはせた。5月1日まで。
春生さんによると、鉄男は旧宮城村出身。旧制前橋中を卒業後、陸軍士官学校に進んだ。満州の軍閥、張作霖を殺害した「張作霖爆殺事件」の実行犯とされ、その後は満州国初期の移民受け入れをはじめ、満蒙開拓政策に深く関わった。
個展の作品を手がけたのは、アーティストの弓指寛治さん(36)=東京都練馬区。14歳で満州に渡り満鉄(南満州鉄道)のレールを敷いた祖父が2019年に亡くなったのを機に、満州に関する作品を本格的に描き始めた。
そんな中、21年に都内で開かれた満蒙開拓団の慰霊祭で春生さんと知り合い、春生さんの案内で、みなかみ町にある鉄男の部下、西山勘二の墓などの関連史跡を訪ね歩き、張作霖に関する文献調査を進めた。
会場に並ぶ約150点のうち、半数程度が鉄男に関する作品。日記や書籍などを基に、鉄男、張作霖の双方の人生をアクリル画で描いている。鉄男の旧制前橋中時代の旅行やシベリア出征で見た山々、張作霖の若き日の姿や、死の直前に列車内でマージャンに興じる様子などを想像力を駆使して仕上げている。
最後に両者を爆殺事件で交錯させ、走行中の満鉄がバランスを崩して倒れかかる巨大な絵で締めくくる。満蒙開拓青少年義勇軍の少年、現地の中国人、耕された大地を細部までこだわって色鮮やかに描き、「満州開拓の持つ加害性と被害性」を表現した。
満州には日本から多数が移住したものの、ソ連の侵攻などで亡くなった人が少なくない。そうした悲劇のイメージから、春生さんは「鉄男を語ること自体、タブー視されてきた」と明かす。その上で「鉄男についての歴史的な見方はさまざまだが、作品を通じ当時の人々に思いを巡らせてほしい」と話している。
弓指さんは「祖父の生きた満州国をさらに掘り下げたい。鉄男が生まれた群馬でも展示できたら」と意欲を示している。
27日は休み。午後1~7時。問い合わせは同ギャラリー(☎03-6869-8650)へ。