渋沢栄一直筆の書 水戸と深いつながり 弘道館で特別公開
近代日本産業の礎を築いた実業家、渋沢栄一が水戸を訪れた1916(大正5)年5月28日にちなみ、栄一直筆の書と関連書簡が28日、水戸市三の丸の弘道館で特別公開された。市内の個人が所蔵していたもので、このほど栄一の書と確認された。書を裏付ける書簡が一緒に見つかるのは珍しく、日付や消印が来水前であることからも、栄一と水戸との深いつながりを示す資料として注目される。
公開されたのは、栄一直筆の書と、書に関連する書簡。どちらも水戸市に住む後藤卓巳さん(68)の祖父、栄寿さんに届けられ、後藤家が保管してきた。先月、卓巳さんが弘道館に書を持参したことから研究員が調べを進め、栄寿さんのために揮毫(きごう)し、送ったことを裏付ける書簡が見つかった。
書は当時、紙だけの状態で送られ、卓巳さんが大学生の頃に軸装した。縦208センチ、横49・4センチ。栄一が大切にしていた論語の一節から、「高い志を持つ人は、自分を犠牲にしても人の道を全うする」などとする内容。弘道館主任研究員の小圷のり子さんは「水戸藩士の志に思いを寄せ、『志士』が冒頭にくる部分を選んだ可能性がある」と分析している。
書簡は渋沢邸に出入りする関係者、鈴木正寿から栄寿さん宛て。依頼されていた男爵(栄一)の書が出来上がったので送る旨がつづられ、日付と消印はともに大正5年5月16日。栄一が弘道館を訪れる12日前となっている。
栄寿さんは当時、太田税務署に勤務。栄一と直接の関わりを裏付ける資料は確認されていないが、水戸訪問の前にやりとりがあったことが分かり、小圷さんは「栄一と水戸の深いつながりを知る上で大きな成果」と話している。
一般公開に先立ち行われた内覧会で、卓巳さんは「たくさんの人に見ていただく機会ができてうれしく思う。祖父も喜んでいるのでは」と感想を述べた。
書と書簡は30日まで、弘道館正庁二の間で公開される。午前9時~午後5時、無料(別途観覧料)。31日以降は展示ケース内に飾られる。
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