《上州ブランド図鑑》えだまメンチ 広がる豆の甘み 沼田の郷土食に レシピを紹介
きつね色に揚げたメンチカツを頬張る。口の中にじわっと広がる肉汁と豆の甘み。たっぷり入った枝豆が、味付けのアクセントになっている。沼田の新名物となった「えだまメンチ」。地元でその存在感が増している。新たな沼田の郷土食に育てようと、開発に携わった利根実業高を中心にアピールが続く。(和田亮介)
えだまメンチが誕生したのは2011年。沼田市がB級グルメで新名物をつくろうと、同高に地元特産の枝豆を使ったメニューの開発を依頼したのがきっかけだった。
◎風味と存在感
食品文化部に所属する2年生4人が担当した。うどんにワッフル、アイス、白玉…。生徒がそれぞれアイデアを持ち寄り、試作を重ねた。そんな中で選ばれたのが、メンチカツの中に枝豆を入れた「えだまメンチ」だ。
「B級グルメを調べたら、しょっぱいものが人気と分かった。沼田はとんかつ店が多いので、揚げ物と枝豆を結び付けられないか考えた」。発案者の太田有紀さん(22)=同市=は振り返る。
こだわったのは、枝豆を生かす方法だ。全てすりつぶしてしまうと風味や食感が損なわれてしまう。かと言って粒のままでは、具材となるたねが思うようにまとまらない。「風味と存在感」(太田さん)の両立を目指し、たどり着いたのは、すりつぶした豆と形状を残したものを混ぜて入れる作り方だった。
◎19店舗で販売
開発から半年後、秋のイベントで初めて販売した。たちまち230個が売れた。ここから次の一歩を踏み出した。
好評を得たえだまメンチの存在を広めようと、学校を挙げたPRが始まった。地元や県外のイベントに積極的に出店し、生徒が直接売った。小売店でも取り扱ってもらえるように、市内の飲食店やスーパーを駆け回った。
取り扱ってくれる店舗は次第に増えていった。今では市内外の19店舗がそれぞれオリジナルのえだまメンチを売り出している。
全国展開のカレーチェーン、CoCo壱番屋沼田インター店(同市横塚町)もその一つ。限定メニューの「えだまメンチカツカレー」(802円)を販売している。独自製法により、生パン粉を使った衣の表面をサクッとした食感に仕上げた。
具材には粒状の枝豆とチーズを入れて、食べ応えは十分。年間3千食が出る人気メニューとなった。来店するたびに注文する人や、評判を聞いて県外から食べに来る人もいるという。
沼田高の正門前にある老舗、角田精肉店(同市西原新町)も「えだまメンチ」(150円)を販売している。牛豚肉の合いびきを使ったボリューム満点の大きさで、部活帰りの男子高校生の空腹を満たす。店を切り盛りする角田幸子さん(66)は「枝豆が入っているからさっぱり食べられる。子どもからお年寄りまで幅広く喜ばれている味」と笑顔で話す。
市も全面的に支援している。市内の全20小中学校で毎年、給食メニューとして提供。ブランド力を高めるため2013年に商標登録もした。
◎レシピを紹介
市は専用ホームページを開設してレシピや取り扱い店舗を紹介するほか、ふるさと納税の返礼品にも採用している。
大河ドラマ「真田丸」の効果で、同市には県内外から多くの観光客が訪れている。それと比例するように、えだまメンチの知名度も飛躍的に上がった。経済効果は1億円を超えるという。
関係者はこれまでと同様に、情報発信を続けながら、郷土食としての地位確立を目指している。開発時から関わる利根実業高教員の野沢次男さん(58)は「親子一緒に作って食べるような、家族のだんらんを生み出す存在にしたい」と話す。親子料理教室や、家庭の味を出品してもらう「我が家のえだまメンチコンテスト」の実施を検討している。
えだまメンチを給食で食べた“第二世代”が同高に進学し、先輩が作り上げた逸品をPRしている。新たな郷土食で地元を盛り上げたい―。その思いをしっかりと引き継いでいる。
◎有数の枝豆産地寒暖差でうま味
利根沼田地区は県内有数の枝豆産地。夏場でも昼夜の寒暖差があり、うま味がぐっと増す。
北毛地区135人の生産者をまとめる塩野商店(沼田市下川田町)は、専用肥料など栽培方法にこだわり「天狗(てんぐ)印枝豆」のブランド名で販売している。1シーズンの生産量1100トンのうち約9割を首都圏に出荷し、高級スーパーなどに並ぶ。
JA利根沼田(同市東原新町)はミネラル栽培枝豆「豆王」のブランドで出荷。管内の生産者70人が育てており、京浜市場で味の評価は高い。
地元でも枝豆の産地という認識が広がりつつある。同JAは「えだまメンチが誕生してPRにも協力する中で、知名度は上がった」と話している。
【データ】沼田市の専用ホームページで「えだまメンチ」(6個分)のレシピを紹介。材料には炒めたキャベツとタマネギ(各60グラム)、牛豚の合いびき肉(120グラム)、ゆでた枝豆のすりつぶしたもの(90グラム)と粒のもの(30グラム)などを使っている。
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