《食いこ》おぬまや(茨城・笠間市) あん上品「天然」たい焼き
木箱の中にずらりと並ぶたい焼き。その横では、ガチャガチャ、ゴトン、ゴトンと金属のぶつかり合う音がする。茨城県笠間市の「おぬまや」店主の小沼晃一さん(56)が、一つ2・2キロの鋳型をいくつも束ね、火床の上で転がしていた。型を一つ持ち上げると顔の前で開き、頬に伝わる熱気で温度を見極め、生地とあんを順番に入れ、再び火床の上で転がした。
丁寧に焼き上げられたたい焼きは、1ミリ前後の薄皮に自家製粒あんがぎっしりと詰まっている。あんはこくがあって上品な甘さ。程よく粒が潰れており、少々の塩気がおいしさを引き立てる。腹は厚く、尻尾にかけて薄くなる。焼きたてはサクサクの皮に、とろとろのあん。時間を置くと皮とあんがしっとりとなじみ、また一味違ったおいしさが楽しめる。
最近は、大きな鉄板の型で一度に何匹も焼く「養殖物」が主流。おぬまやのように1匹ずつ焼き上げる「天然物」は希少だ。「体力を使うし、型の掃除も大変」と話す小沼さん。重い型を終日動かすため、力が集中する人差し指の側面はすっかり硬くなっている。指先の感覚で生地のコンディションを確かめ、火入れを調整し、香ばしい薄皮に仕上げる。「1匹たりとも同じものがない」との言葉に、小沼さんのこだわりが見える。
大手コンビニチェーンのオーナー時代、会合で上京した際に立ち寄ったたい焼き店で、職人のたたずまいの美しさに感銘を受けた。自らの手と技でものを生み出す仕事に憧れ、25年近く経営していたコンビニ店を譲り、都内の店で約2年間修業。2021年11月、オープンにこぎ着けた。
店のロゴやたい焼きの尻尾部分には「央(なかば)」の文字が刻まれている。かつて小沼さんの父やそのきょうだいが営んでいた個人商店でも同じ文字を掲げていたそうだ。小沼さんは文字の意味を、真ん中で謙虚に真面目に生きる、と解釈。「見ると気が引き締まる」と屋号に据えた。
中身は粒あんのみ。まれにリボンと長いまつ毛がかわいらしい「女の子」たい焼きにお目にかかれる。この他、ソフトクリームに自家製あんがのった「onuソフト」など冷たいデザートもお薦め。
■お出かけ情報
おぬまや
▽笠間市安居1346の1
▽営業時間は午前8時半~午後4時。
▽定休日は毎週月曜、隔週火曜、臨時休あり。
▽電話番号非公開。インスタグラム、X(旧ツイッター)のアカウントはonumaya501
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