能楽文化、古河に定着を 地元出身の久貫さん 11日発表会、親子指導に熱

茨城新聞
2018年8月9日

古河市出身でシテ方宝生(ほうしょう)流の女性能楽師、久貫弘能(くぬきひろの)さん(55)=重要無形文化財保持者(総合認定)=が、昨年から市内の親子に本格的な能の稽古をつけている。故郷の子どもたちに「能を通じて受け継がれてきた日本の心を感じてほしい」との思いからで、11日の発表会に向け、指導に熱が入る。幽玄の世界を表現する能をたしなむ人は減っているが、「古河を能楽文化が常にある場所にしたい」と話している。

「足の位置が逆」「扇を持つ手が違う」。親子に次々と指摘が入る。昨秋から毎月、同市内で開かれている「古河お能の会」の稽古だ。久貫さんの指導は厳しいが、謡や舞に取り組む子どもたちの表情は明るい。

古河七小6年、中川虎志朗君(12)は「久貫先生は所作を間違えても、丁寧に教えてくれる。みんなと一緒に発表会を楽しみたい」。上辺見小5年、高井集さん(10)は「伝統芸能を大切に受け継がせたいという先生の思いに応えたい」と、それぞれ意欲を見せた。

同市では2015年度から、夏休みに日本文化に挑戦する文化庁の親子能楽体験教室が開かれている。お能の会は昨年、同教室で能楽の魅力に触れた親子18人が結成。「1年間に1度ではもったいない」と引き続き久貫さんに指導を依頼し、稽古が始まった。

久貫さんの能との出合いは小学1年生。父と一緒に當山(とうやま)興道さんに師事し、8歳で初舞台を踏んだ。東京芸大で宝生流の佐野萌さんの指導を受け能楽を習得。昨年、重要無形文化財保持者に認定され、夫の白坂保行さん(49)=大鼓方高安流=とともに、能楽界で2組目となる夫婦での保持者となった。

能楽は室町時代以降、武家の芸能として親しまれてきた。神への敬いや鎮魂、人を悼む日本人の精神性を土壌にした謡や舞は、かつて民衆の教養として身近にあった。

ただ、近年は習う人も観る人も減少し、伝統文化をどう継承していくかが課題。久貫さんは「目に見えない世界を感じ取り、敬って、表現するのが能。礼儀作法や日本語が持つ意味なども学べる」と、伝統文化の魅力と意義を強調する。

古河市は戦国時代に古河公方・足利成氏が拠点としたこともあり、室町文化と縁が深いまち。久貫さんは「子どもたちは、楽しみながらも懸命に稽古に臨んでいる。能楽の稽古や発表会から、能が地域とつながり、広がりを見せてくれたら」と期待を膨らませた。

親子の能楽発表会は、同市長谷町のスペースU古河で午後2時から。演目は「五雲」「絃上」「安宅」「高砂」など。入場無料。

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