「日立アルプス」人気 市、トイレや計測器設置、環境整備に力
茨城県日立市の南北に連なる山々「日立アルプス」が、近場のハイキングコースとして人気を集めている。海を望みながら尾根沿いを縦走できる県内では珍しいコースで、初心者から上級者まで楽しめる。市は新たな観光拠点にしようと、3年ほど前から水洗トイレや案内看板を設置するなど環境整備を本格化。「日立は海も山も魅力」とPRを強化している。
日立アルプスは、多賀山地南部の高鈴山(623メートル)を主峰に、南端で関東平野を一望できる風神山(242メートル)から北は神峰山(598メートル)、石尊山(386メートル)まで連なる準平原化した山々の通称。
風神山から神峰山方面への「縦走コース」は全長25キロほどの健脚者向けだ。なだらかな稜線(りょうせん)上の登山道は段差も少なく、東に太平洋や市街地、西に栃木県の那須連山などを見渡せる。近年はトレイルランで訪れる人も多い。
■利用実態把握へ
市は2019年3月に策定した第3次市観光物産振興計画で、日立アルプスの活用促進を主要施策の一つに位置付け、施設整備を進めてきた。
昨年度は、御岩山(530メートル)と神峰山を結ぶコース上に太陽光パネル型の簡易水洗トイレを整備し、今春には真弓山(305メートル)でも同様のトイレの供用を開始。主要コースのトイレは計5カ所に増え、利用しやすくなった。
登山客がどの程度いるのか、自動で数える「登山者カウンター」を昨年以降、高鈴山や神峰山などに計4台設置した。市によると、パワースポットとして名高い御岩山の登山客は、昨年11月に月別最多の約9千人を記録。単純に年換算すると、年間約10万人が訪れる人気の宝篋山(つくば市、461メートル)に匹敵する。
■活用へ土地借用
市はコースを活用したイベント開催などを視野に、国有林野にあるコースの土地借用の手続きを進めている。昨年度は前年比約3倍の予算を確保して測量調査を始めた。
ハイキングコースマップの更新や観光情報と組み合わせたモデルルートの設定も進めており、市観光物産課は「山の豊かな自然環境にも目を向けて誘客を促進する」と意気込む。
取り組みが奏功し、認知度は徐々に上がっている。3月には茨城大主催の高校生コンテストで、日立アルプスの魅力に迫った日立一高生の動画作品「ヒタチビト」が最優秀賞を受賞。ユーチューブで配信されている。
■親しまれて30年
日立アルプスの通称は、市内に拠点を置くハイキングクラブ「のんびり」が1980年代後半に名付けたものという。
市民ハイクを主催する中で、「もっと多くの人に親しんでほしい」と名称を検討。元会長、高橋勝美さん(71)は「日本アルプスに挑戦する前の練習にも使われていたし、語感も良く、登った人が達成感を得られるようにとの思いを込めた」と振り返る。高橋さんはこの山の魅力について、海と山の近さや長距離縦走コースに加え、ヤマツツジやエイザンスミレなどの植物観賞、ワラビやゼンマイといった山菜採りなど、年間を通じて多様な楽しみ方ができる点を挙げる。
登山口が豊富なため、レベルに応じたルート選びも可能だ。
縦走コースは電車やバスで出発地点に戻る必要があるが、高鈴、御岩、神峰の3座は、県道36号沿いの登山口から近く、同市入四間町のレジャー施設「奥日立きららの里」から登ると、3~4時間ほどで回り切れる。
神峰山頂からは、山地に包み込まれた市街地の先に太平洋が広がり、工都を象徴する大煙突と相まって、この地しかない風景を見せてくれる。