《食いこ》年宝菓子店(茨城・大洗町) 郷愁誘う甘み、カルメ焼き
茨城県大洗町磯浜町の曲がり松商店街は、江戸末期から明治に創業した老舗が点在する由緒ある地域。一方、同町を舞台にしたアニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」が、2013年に放送されて以降、ファンによる「聖地巡礼」でも知られる。二つの顔を持つかいわいで、幅広い支持を集める店の一つが年宝(ねんぼう)菓子店。手作りをモットーとし、主力商品のカルメ焼きは、黒糖のほのかな甘みが郷愁を誘う。
カルメ焼きはカステラなどと同じ室町時代末期にポルトガルから伝来した南蛮菓子。カルメは漢字で「軽目」と書かれ、ポルトガル語の「甘いもの」を意味する「caramelo」の音に由来する。
「派手な菓子ではないが、懐かしさを求めて県内外からの多くのお客さまが訪れます」。店主の坂本光史(こうじ)さん(60)は笑みをたたえこう話す。店は、光史さんの祖母せいさんが戦後間もなく創業。その後、父親の和男さんが会社を定年退職した時に受け継ぎ、約20年前からは光史さんが兄圭一さん(63)の手を借りて、切り盛りする。
同店のカルメ焼きは通常、店と離れた作業場で製造するが、取材のため特別に店内で実演してくれた。材料は黒糖、ザラメ、重曹のみ。液体状にした素材を専用のお玉に入れ、ガスこんろで熱する。約5分でドーム状に膨らみ、冷めたら完成品となる。手渡されたかけらを口に運ぶと、サクッとした歯応えの後に、黒糖の優しい甘みが広がる。
光史さんは、その日の天候や温度、湿度によって素材の量を微調整するという。肝となるのが銅製のお玉で、「膨らんだカルメ焼きをきれいに剥がすには、熱伝導が均一な銅製の機材が最適なんです」と説明する。
あめの製造にも力を入れ、コーヒーあめや梅あめなど、味のバリエーションは豊富だ。
また店内の棚には、ファンが持ち寄った戦車のプラモデル、キャラクターのフィギュアが所狭しと並び、ガルパン人気のすごさがうかがえる。ブラジルやチリなど地球の裏側からも足を運ぶという。
圭一さんは「ありがたいことです。通りのにぎわいもアニメ放映前は考えられなかった。体が許す限り、店を続けていきたいですね」と静かに微笑んだ。
■お出かけ情報
年宝菓子店
▽大洗町磯浜町673
▽営業時間は、午前9時~午後6時
▽休業日は火曜
▽(電)029(267)2805