水戸市民会館がオープン 中心市街地活性化、文化の拠点

茨城新聞
2023年7月3日

水戸市の新たな市民会館が2日オープンし、記念式典に多くの家族連れや市民が訪れ、にぎわった。中心市街地の活性化や文化芸術の発信拠点として期待される。12月には、先進7カ国(G7)内務・安全担当相会合の会場として使用される予定。

式典では、狂言師の野村萬斎さんが五穀豊穣を祈る「三番叟(さんばそう)」で舞を披露したほか、作曲家でピアニストの野平一郎さんがドビュッシーの「アラベスク第1番」などを奏でた。

高橋靖市長は「中心市街地が活性化するために活用する。新しい文化を呼び込み、笑顔あふれるまちにしたい」とあいさつした。

新会館は、東日本大震災で被災した旧会館から約1.5キロ離れた同市泉町に移転新築した。地上4階、地下2階。茨城県内最大級の2千席のホールのほか、木製の柱と梁(はり)を組み上げて造った多目的スペース「やぐら広場」などを整備した。

会館2階と京成百貨店をつなぐ国道50号上の上空通路(歩道橋)も同日開通。橋から街並みを眺めようと家族連れなどが渡った。

会館の開場は午前8時半~午後10時。

 

■中心街再興に期待 新たな「顔」魅力向上へ

水戸市の新市民会館が2日オープンし、初日から多くの人出でにぎわった。茨城県庁移転や郊外型商業施設の進出で空洞化が叫ばれていた中心市街地に新たに誕生した「街の顔」。市街地の盛衰を目の当たりにしてきた周辺店舗からは「市街地の再興を」と期待の声が上がる。

同館前ではこの日、開館を待ち望む市民ら100人以上が、午前9時の開館前から行列を作った。開館後のロビーは来場者でごった返し、午後0時半に国道を挟んで反対側にある京成百貨店との上空通路が開通すると、買い物帰りの人々も加わって混雑はピークに達した。

水戸市民会館(右)と京成百貨店をつなぐ上空通路を行き交う人たち=2日午後、同市泉町

 

同館がある同市泉町1丁目周辺は以前、大型商業施設が立ち並び、長年にわたって街のにぎわいをけん引。しかし、県庁が1999年に移転したり、市内外に大型商業施設が相次ぎ開業したりして空洞化が加速した。

水戸商工会議所などの調査では、市街地の歩行者通行量は1日当たり6万人を超えていた約10年前に比べ、昨年は4万人台。市はこれまで、マイカーで訪れやすいよう地下駐車場などを整備してきたが、街を歩く人の数は減少傾向が続いていた。

「あの頃、街並みは人、人ですごかった」。80~90年代のにぎわいを知る洋食店「れんが家」店主の野上上さんは市街地の盛衰を目の当たりにしてきた1人。近年は新型コロナウイルス禍で耐える日々が続いていたが、「市民会館のオープンで流れが変われば」と集客に期待を寄せる。

同館1階入り口そばに出店した豆菓子店「但馬屋」3代目の三輪朋佳さん(66)は、新たな拠点のオープンに「勇気をもらった」と笑顔。再開発の中心地として、「水戸の街を引っ張ってほしい」と話した。

「中心市街地の魅力は減り、人口減を肌で感じていた」と話すのは、68年創業の喫茶店「BENZ(ベンツ)103」(同市泉町2丁目)オーナーの雨ケ谷出水さん(59)。同館と京成百貨店、水戸芸術館の相乗効果で「開館から往来が活発になれば」と語り、市街地の魅力向上とにぎわい復活を願う。

 

■萬斎さんら迫力演舞 野平さんがピアノ開き

水戸市民会館の開館を祝う記念式典が2日、同館グロービスホール(大ホール)で開かれた。市民ら約2千人が訪れ、狂言師の野村萬斎さんによる「三番叟(さんばそう)」や日本を代表するピアニスト、野平一郎さんのピアノ開きミニコンサートを楽しんだ。ユードムホール(中ホール)では14日に始まる舞台の稽古が公開された。

野村さんによる「三番叟」は古風な様式を多くとどめた神聖な演目。特別な記念の催しなどで披露され、五穀豊穣(ほうじょう)の願いが込められている。梅の花がモチーフの音響反射板が壁に施された大ホール内に鼓の音や、かけ声、舞台を踏みならす足拍子が響き、迫力ある演舞が来館者を魅了した。

「三番叟」を演じた和泉流・野村萬斎さん=水戸市泉町(同市提供)

 

ピアノ開きミニコンサートでは、設置したピアノの選定について野平さんが解説。幅広い利用者が使うことを考慮し「バランスの良い楽器を選ばせてもらった」と説明した。野平さんは、ドビュッシー作曲の「アラベスク第1番」など3曲を演奏した。

同市宮町、学生、渡部由成さん(22)は「狂言は迫力があり、ピアノは聞き心地が良かった」と余韻に浸った。

14~17日上演の舞台「ファンファーレ!!~響き続けた吹奏楽部の物語~」のリハーサルは今回が初公開。出演者が楽器をチューニングする場面が披露された。中ホールの舞台上の動線や設備を確認したり、台本の内容を擦り合わせたりする「舞台裏」も紹介した。約340人が見入った。

出演者の黒河内りくさん(23)は「練習で積み上げてきたものを発揮できた。『希望』の作品を、たくさんの人に見てほしい」と来場を願った。同舞台は、新型コロナウイルス禍で奮闘する高校の吹奏楽部員を描いた群像劇。水戸女子高(同市上水戸)吹奏楽部が作品のモデルになった。

 

■茨城県美術の大作一堂 水戸市民会館、開館記念 多彩な表現、61点並ぶ

水戸市民会館(水戸市泉町)の開館を記念した特別展「水戸の風2023」(茨城新聞社など後援)が2日、同館展示室で始まった。茨城県美術界をけん引する31人の代表作61点が並ぶ。同市および近郊を拠点に県内外で活躍する作家の多彩な表現を身近に感じることができる。17日まで。

2018年以来5年ぶりの開催。日本画▽洋画▽彫刻▽工芸美術▽書▽写真▽デザイン-の7部門で構成している。ジャンルや会派の垣根を越え、大作が一堂に会した。日本芸術院会員の彫刻家・能島征二さんは「作家が育ってきている。今回出品されているのは、中央展に発表した作品ばかり。水戸市民会館のオープンにふさわしい展覧会だ」と太鼓判を押す。

会期中の8、9、15、16日は、午後2時から、出品作家が来場者と一緒に作品を鑑賞し、制作秘話などを特別に紹介するギャラリートークを行う。各日とも作家2~5人が出演する。

午前10時~午後6時。入場無料。問い合わせは同市文化交流課(電)029(291)3846。

茨城県美術界をけん引する作家の代表作が並ぶ「水戸の風2023」=水戸市泉町