台風19号 常陸大宮 西塩子の回り舞台 風雨耐え20日公演

茨城新聞
2019年10月19日

台風19号の猛烈な風雨に耐え、常陸大宮市の塩子地域に建てられた県の有形民俗文化財「西塩子の回り舞台」は残った。昔ながらの屋根のこもは、ほとんどが飛ばされ、覆ったビニールも中央部がなくなるなど傷んだが、基礎材に影響はなかった。その後の修復作業も進み、18日には舞台のほとんどが完成。20日の3年ぶりの公演で披露する歌舞伎の稽古は、最後の仕上げに入った。大貫孝夫保存会長は「市内に被災者がいるので、静かに公演したい」と思いやるが、これまで以上に気持ちが入った出し物になりそうだ。

「舞台があって一安心した」。台風明けの13日朝、大宮公民館塩田分館グラウンドに集まってきた住民たちは、同じ思いだった。目の前には、2カ月近くかけて、みんなで組み上げた間口と奥行き各20メートル、アーチ形の屋根の高さ7メートルの壮麗な舞台が構えていた。

西塩子の回り舞台は、江戸時代後期の「文政三年」(1820年)と記された大幕が残り、日本最古とされる組み立て式農村歌舞伎舞台。舞台の上に回り舞台が載り、花道もある。柱などに使用する材木約200本、屋根や周囲に使用する青竹約300本で、ひもで縛るなどして組み立てる。

地域の全世帯が保存会員となり、舞台を組み立てては、自ら役者となって歌舞伎などを公演。公演後に壊して、3年後にまた組み立てる。1945年を最後に途絶えていたが、97年に復活。毎回、約4千人を集める地域の文化財であり、芸能だ。

強風に飛ばされないように、舞台に支柱を立ててワイヤーで固定。傷ついても無事だった舞台に、大貫会長は「南風ならまともに舞台の中に吹き込んで、危なかった。やや東からだったので助かった」とほっとした。地域に大きな被害はなかったため、住民らは舞台の修復作業を進めた。

アーチ形屋根の先「カガミ」や舞台にちょうちんを飾り、照明も設置して、舞台は整った。周囲には約70本の色鮮やかな歌舞伎のぼり旗を立て、歌舞伎公演ムードも高まってきた。

屋根の雨よけのビニールは、観客席の中央部が破れたため、雨の予報だった19日の公演を一日延ばした。演目は地元の子どもたちによる歌舞伎の名場面「白波五人男・稲瀬川勢揃いの場」、保存会員で構成する西若座の「太功記十段目」のほか、津軽三味線や舞踏劇なども披露される。

台風により、常陸大宮市は大きな被害を受けた。被災者を思い、声高にアピールはしないが、「来場者には精いっぱいのものを見せたい」。大貫会長は、台風に耐えた舞台に負けない公演にするつもりだ。

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