《まち里歩き探検隊》モダンな風景残る街 桐生市

上毛新聞
2019年2月12日

織物業で栄え、明治から昭和にかけての洋風建築物が数多く残る桐生市。市街地を一望する自然豊かな水道山の中腹にある大川美術館では、画家の松本竣介(1912~48年)の没後70年と開館30周年を記念した「松本竣介展」が開かれている。モダンな街の様相は、松本が描いた風景とどことなく似ているという。美術館を出発し、桐生の中心街を巡ってみた。

地元の文化・芸術の発信地でもある大川美術館の館内は温かな雰囲気が漂い、数々の名画が並ぶ(❶)。

青を基調にした背景に都会の家々や人物が重層的に描かれた松本の代表作「街」は、異国情緒が漂う描写で、これから出合う桐生の風景に期待が高まった。


同館の正面右手に街へと延びる細長い階段があり、澄み渡る空と街並みの景色が広がっていた(❷)。階段を下る足取りが自然と軽くなるのを感じた。


住宅街を抜けると、タイルの外壁の桐生織物記念館が見えてきた(❸)。34年に桐生織物同業組合の事務所として建てられ、現在は織物の展示室などに活用している。熊田恵司館長は「1階では帯やネクタイなど良質で安価な製品も販売する」と話していた。

同館の裏、永楽町交差点を東へ。住宅街の間から山並みをのぞきながら5分ほど進み、創業82年の洋食店「芭蕉(ばしょう)」の門をたたいた(❹)。風情あるたたずまいの店内には、棟方志功が描いた壁画や馬などの個性的な民芸品が並ぶ。開店当初から提供するというハンバーグとエビフライをセットにした定食「芭蕉ランチ」(1080円)に舌鼓を打った。


おなかを満たした後、再び歩きだすと、本町通り沿いで、石やタイル、レリーフで外壁を飾った金善ビルが目に入った(❺)。県内最古級、築98年になる鉄筋コンクリート造りで、国の登録有形文化財の一つ。近代的な街として繁栄した桐生の歴史をうかがわせた。


最後に、れんが造りの有鄰館などが並ぶ本町通りを北に進み、群馬大を目指した。淡いブルーの洋風外壁が特徴的な同大工学部同窓記念会館(❻)は、築103年の講堂で、厳粛な雰囲気に包まれていた。今も昔も学生の日常の風景に溶け込んでいることが分かり、しばし心を奪われた。

【ちょっと一息】モリムラ珈琲(コーヒー)店(桐生市本町)


本町通りの南側にあるノスタルジックな雰囲気が魅力の喫茶店。マスターの森村晃一さん(74)が1976年にオープンし、地元の常連客も多い。
看板メニューのコーヒーは、すっきりとした酸味とほど良い苦みのブレンド(400円)や、各種ストレートを取りそろえる。軽食はハムや野菜、チーズをたっぷりと挟んだ3種のホットサンド(450円~)、モーニングセット(450円~)が人気。
甘味の注文も多く、クリームあんみつ(650円)は手作りのあんや寒天の上にメロンやリンゴがぜいたくにのる。この時季は、体を温めてくれるお汁粉(600円)もお薦めだ。問い合わせは同店(☎0277・43・9562)へ。

【メモ】 大川美術館から本町通りなどを歩いて、群馬大まで約2.7キロ。紹介した場所のほか、周辺には桐生倶楽部や水道山記念館など歴史的な建造物が立ち並ぶ。水道山は街灯が少ないため、日中の散策をお勧めしたい。

◎本日の探検隊員 「異郷」の旅情体感 文化生活部 土屋麻里記者
明治から昭和の洋風建築物が点在し、夭折(ようせつ)の画家、松本竣介が描いた「街」のようなモダンな雰囲気が漂う桐生市街地。大川美術館の松本竣介展を取材した際、田中淳館長から街の魅力を聞き、周辺を歩いてみた。数時間の散策だったが、異国を訪れたような旅情に浸ることができた。近くにある「異郷」を体感してみてほしい。