《路線バス 終点を行く(2)》勧能(南牧) 渓谷 寄り添う暮らし
南牧川沿いの県道下仁田臼田線を走る「南牧バス」。渓谷を西に進むと、傾斜地に越屋根の養蚕家屋や古民家が連なる南牧村の勧能(かんのう)集落にたどり着く。
午前8時半。勧能バス停の待合所に、手提げバッグの女性がゆっくりと歩いてきた。川の対岸に自宅がある市川えいさん(83)=同村羽沢。40分発のバスで下仁田町の姉の家へ遊びに行くという。
村は5年前から、申告制で75歳以上の村民にバス無料乗車券を発行。乗車券を発行した600人余りの運賃を村が補助している。
市川さんは15年前に夫を亡くし、長く一人暮らしだ。下仁田厚生病院を定期的に利用しており「免許がないので無料で乗れるのは本当に助かる」と話す。
市川さん宅裏の高台にはサクラに囲まれたゲートボール場がある。昼すぎ、70、80代の女性7人が集まってきた。約1時間プレーした後、持参したまんじゅうやあめを分け合い、話に花を咲かせた。高齢化は進むが、家並みと同じく寄り添うように暮らしている。
3月末の村人口は2092人、うち勧能地区には42世帯70人が生活する。「たまにバスに乗ると(同乗者と)にぎやかだいね」。ゲートボール場近くで、農作業をしていた工藤ふみ子さん(86)は笑う。バスを運転する雨沢ハイヤーの市川治代表(66)は「お年寄りには唯一の足で、交流の場にもなっている」と力を込めた。
【下仁田駅―勧能線】上信バスが1996年3月に撤退後、南牧村の補助を受けて雨沢ハイヤーが運行する。15人乗りワゴン車を利用。1日2便(12~3月は水曜のみ)は、勧能の奥の熊倉まで延長運行する。勧能から下仁田駅まで約40分、500円。
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