《工場探検隊》森の木を楽器に カスタネット工房

上毛新聞
2019年3月7日

子どもの頃、遊戯や運動会で親しんだカスタネット。日本で初めてこの楽器を作った工場が、みなかみ町にある。間伐材から製品ができるまでを、カスタネット工房(同町布施)で追った。

学校教育で使われるカスタネットは、同工房社長の冨沢健一さん(73)の父、捷(すぐる)さん(故人)らが開発。スペインの民族楽器を基に考案したという。最盛期の1970年代には年間約200万個を生産。材木の不足などで一度廃業したが、同町の国有林、赤谷の森の自然保護に取り組む赤谷プロジェクトのメンバーから要望を受け、社名変更して2013年に再開した。森の間伐材で作ったカスタネットを販売するほか、町内全小学校の新入児童に毎年贈っている。

使用する間伐材はミズキ、サクラ、ブナ、クリの4種。それぞれ音の響きが異なり、細長く製材して1年ほど乾燥させたものを使う(❶)。加工工場には年代物の機械が並ぶが、そのほとんどが冨沢さんの自作だ。まず木材を円形状の板に切り出す(❷)。勢いよく飛び散る木のくずをものともせず、手際よく切って内側のくぼみを作る工程へ(❸)。くぼみの加減は冨沢さんの勘一つ。「右のレバーを腰に当てながら左のレバーで板を挟むと安定する」と操作のこつを教えてくれた。裸電球の下、一つ一つ木目を確認し、ざらついた部分を機械の回転を利用して、やすりで滑らかにした(❹)。

❶乾燥させる木と冨沢さん

❷切り出す

❸くぼみつける

❹やすりがけ

 

キリ3本をセットした機械でゴムを通す2穴と、音を出すためのびょうの差し込み穴を開ける(❺)。外側も削り、緩やかな曲線に仕上げたら内側の合わせ部分を斜めに削る。この作業でカスタネットは常に開いた状態に。びょうは赤いプラスチック製(❻)と木製がある。素材名を焼き付け、上下を合わせてゴムで結べば完成だ。レーザープリントで文字や絵を描くこともでき、ぐんまちゃんの絵柄は特に人気という(❼)。塗装をせず、木の手触りや経年変化を楽しめるのも魅力だ。

❺穴をあける

❻びょうをつける

❼完成したカスタネットと木の違い

 

売り上げの一部は、赤谷の森の自然保護に役立てられる。冨沢さんは「楽しみながらカスタネットや森について学んでほしい」とほほ笑む。最後に製作体験をさせてもらい、ほのかに木の香りが残るカスタネットを持ち帰った。

【ちょっと一息】自分の手で絵、文字 森の恵みと学びの家(みなかみ町須川)

カスタネット工房にほど近い、道の駅たくみの里内にある。同工房のカスタネットが買えるほか、絵付け体験でオリジナルの一品が作れる。

4種類の素材から好みのカスタネットを選び、カラーペンで絵を描いたり、電熱ペンで絵や文字を焼き付けることができる。要望があればレーザープリントにも応じる。体験料は800円、購入のみは600円から。
担当者の市毛亮さんは「電熱ペンは作り応えがあって人気。カスタネットを通じてみなかみの自然や間伐材について伝えていきたい」と話している。

午前9時~午後4時(3月中旬以降は同5時)。木曜定休。問い合わせは同施設(0278・25・8777)へ。

「お土産やプレゼント用にお薦め」と話す市毛さん

 

【メモ】カスタネット工房は学校教育用のカスタネットを製造したプラス白桜社が前身。見学時間は要相談で、1人千円から。機械の操作や製作体験もできる。問い合わせは冨沢さん(0278・64・0338)へ。