《まち里歩き》スタート地点 JR後閑駅(みなかみ町後閑) 歌人が愛した自然
今年6月、人と自然の共生を目指すモデル地区、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)に認定されたみなかみ町。「みなかみ紀行」を記した若山牧水もこの地を巡った。真夏の青空に映える緑の山と豊かな水を眺めながら、文化と歴史の足跡を探った。
スタート地点はJR上越線の後閑駅(❶)。与謝野晶子・鉄幹夫妻ら、町の自然を愛した歌人が降り立ったことで知られる。現在は通学や観光で1日平均800人が利用している。
駅を背に真っすぐ歩くと豊かな森の象徴、モリアオガエルのモニュメントがお出迎え。町役場を右手に見ながら進むと、9日に開通予定の徒渉橋(ただわたりばし)が見えた。利根川に架かるその橋のたもとには万葉集の歌碑が立つ(❷)。「利根川の河瀬もしらすたたわたりなみに逢ふのすあへる君かも」。徒歩で川を渡る情景と思い人との偶然の出会いを喜ぶ歌から、古来より川が身近な存在だったことが分かる。
橋から見える小高い丘に向かう。「天下の義人」で知られる茂左衛門(もざえもん)の地蔵を祭っている千日堂に到着。茂左衛門が処刑された後、多くの人が千日供養を行ったことに由来するお堂は、地元の篤志家らの浄財によって1922(大正11)年に建立された。真田家の圧政に苦しむ領民のため当時の将軍に直訴し、罰せられた茂左衛門の生涯を描いた御朱印が人気だ(❸)。昨年発売された手描きの御朱印はインターネットで反響を呼び、全国から御朱印ファンが買い求めに訪れるという。
関越自動車道の近くまで坂道を上ると、月夜野温泉「みねの湯つきよの館」があった。月夜野の町を一望できる絶景を眺めながら日帰り入浴と食事、宿泊ができる。アルカリ性単純温泉の湯舟で足を伸ばしながら見る景色は旅人の疲れを癒やしてくれる(❹)。
関越道沿いを進み、龍谷寺へ。臨済宗の禅寺で、地元出身の日本画家、林青山の描いた天井画が有名だ。圧巻は金色に輝く十六羅漢像(❺)。四国阿波法輪寺の像を模して作られたといわれ、その豪華さは極楽浄土を連想させる。
地元の歴史や旧跡を紹介する住民団体、師(もろ)地区パワースポット保存会長の師久夫さん(76)=写真=は「駅周辺は古墳から奇岩まで、伝説と古跡の宝庫」と話し、不思議な形の岩を案内してくれた。地元で蛇石(❻)、蛙石(❼)と呼ばれる奇岩だ。確かにヘビとカエルの形に見える。伝説によるとけんかを続けた2匹が神様の怒りを買い、石にされてしまったという。自然を敬い自然の中で生きた人たちの想像力の深さを感じた。
(沼田支局 細井啓三)
≪コースの特徴≫
緩やかな上り坂のある5.5キロ。緑を感じ、小鳥やセミの鳴き声も楽しめる。
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