笠間の旧「井筒屋」 観光拠点整備が始動

茨城新聞
2017年7月27日

明治時代から続く老舗旅館として親しまれた笠間市笠間の旧「井筒屋」を観光拠点に再整備する市事業の一環で、3階建て本館の曳家(ひきや)が25日行われ、後方に約14メートル移動した。跡には交流広場を設置、建物は展示スペースなどに改修し、来年3月オープン予定。再整備計画はこれまで紆余(うよ)曲折で遅れただけに、建物も計画も“大きく動いた”。

■東日本大震災で被災
1894年建設とされる本館は笠間稲荷門前通りの突き当たり。木造で延べ床面積482平方メートル。笠間を代表する旅館だったが、東日本大震災で被災し、復旧半ばで廃業した。再整備への第1段階となる曳家工事の実施は、耐震性能のある新たな基礎の上に建物を移すのが最大の理由だ。

7月上旬に着工し、ジャッキを18カ所に設置して建物を持ち上げ、敷設したレールに乗せた。この日は周辺住民や市関係者らが見守る中、バランスが崩れないようゆっくり後方へ押し、1時間かけて約14メートル移動させた。26日以降はレールの取り外し作業に入り、新たな基礎の上に固定する。

■耐震補強で本館改修
曳家跡には観光客や市民が集い、イベントもできる交流広場を設置。地元特産・稲田石を敷いた門前通りと一体感を持たせるため、こちらも石畳にする。

本館は耐震補強を兼ね改修。1階は同広場からくぐり抜けられる門状にし、残りの空間は観光のPRや案内に使う。2階は笠間の偉人などを紹介する歴史展示コーナー、3階は多目的空間として利用。外観はベランダがあった建設当時に近づける。

同広場整備費は約3千万円、本館整備費は約1億7千万円で来年2月までに完成予定。運営は指定管理者制度を視野に入れる。

このほか、1階をくぐり抜けた先に遊歩道を整備予定。土地は新館跡など主に市有地で、「忠臣蔵」で知られる大石内蔵助の祖父・大石良欽の邸宅跡、笠間日動美術館などと結び、笠間稲荷神社、門前通りなどとの回遊性を持たせる。遊歩道以外には宿泊施設や商業施設が進出できるスペースとして2600平方メートルを造成、誘致を図る。

■宿泊継続見直し
井筒屋の再整備に向けた道は険しかった。市は門前通り周辺を象徴する歴史的な建造物として2012年度、土地開発基金を使い敷地約4300平方メートルを購入。本館の保存と宿泊施設としての営業を条件に運営者を公募し、水戸市内の事業者と委託契約を結んだものの、採算性などを理由に辞退となった。

その後も事業者は見つからず、14年度、足かせとなった宿泊継続の方針を見直して今回の新計画を策定。順調にいくと思われたが、16年10月の本館工事入札が建設費の高騰で不調に終わり、予算を上乗せするなどして着工が半年遅れた。

「井筒屋の再生」を前回市長選の公約に掲げた山口伸樹市長は曳家の視察に訪れ、「再生へようやく動き出し、ほっとしている」と安堵(あんど)の表情を見せた。

作業をじっと見守った隣家の人形店の川島千恵子さん(74)は「大きな建物を簡単に動かすのだからすごい。(廃業後は)寂しい思いをしたので、整備でにぎわいが戻ることを期待している」と語った。  

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