前橋文学館長就任1周年 「萩原朔美の仕事展」 「のぞき穴から世界を」 映像、雑誌、エッセー… 定点で時の流れ観測
映像作家やエッセイスト、演劇人など多彩な顔を持つ前橋文学館長、萩原朔美さん(70)が手掛けた作品を紹介する企画展が同館(前橋市千代田町)で開かれている。同じ場所、同じ角度で撮影した「定点観測写真」をはじめ、どの作品にも共通するのは視点の面白さだ。同市出身の詩人、萩原朔太郎の孫である萩原さんは「全ての発想の基本は言葉にある」と語る。
館長就任1周年を記念し、「萩原朔美の仕事展vol.1」として開催。映像作品6本を上映し、社長や編集長として携わった雑誌「ビックリハウス」、写真、アートブック、エッセーなど約100点を紹介している。
幼い頃の萩原さんと20代後半、60代など定点で切り取った写真は時間の流れをリアルに伝える。雑誌のモデルとして上半身裸で撮影した20代の姿と並ぶのは、同じポーズで昨年撮影した写真。「ほくろの位置は同じでも、腹は醜くなっちゃって。老いは変えられないが、笑い飛ばせる」と萩原さん。
自分を素材にして乗り越えようとする姿勢は、左目が見えなくなったことを扱った映像作品「目の中の水」(2012年)や「左からやって来るもの」(16年)にも表れる。「普通、表現は人を救うことだが、そのことによって自分が救われるのはありがたい」
19歳から寺山修司さん主宰の劇団「天井桟敷」に参加。約3年半、役者や演出家として慌ただしく過ごした。
個人での創作は、1個のリンゴの変化を追った映像作品「TIME」(1971年)が出発点だった。「劇団を辞め、何をやったらいいのか分からなくて、机の上のリンゴを365日、毎日撮影した。カレンダーにしたけど売れなかった。動画にしたら、時間の移り変わりが物の上に表れるのが面白くて、定点観測をするようになった」
75年から10年間は雑誌「ビックリハウス」を手掛け、さまざまな企画をしたり、文章を書き続けてきた。演劇から離れたものの、言葉の選び方や発想は寺山さんから受けた影響が大きかったという。
多摩美術大で教壇に立つなど数々の転機の中で、2011年の東日本大震災は自身の映像作品を大きく変えた。「それまではどこか高見の視線でアイデアが先行していたが、自分は作る人であると同時に見る人。客席の視線に変わっていった」
朔太郎作品は意図的に避けた面もあり、ほとんど読んでこなかった。昨年4月に館長になってから読み始め、多くの発見があったという。作品に頻繁に登場する白は、映像作家の視点から「乱反射の極限」だと考える。
若い世代が文学館を訪れるような発信をしながら、年内に新たな映像作品を完成させる予定だ。「マンションの一室ののぞき穴から見た映像を3年くらい撮っている。私たちは世界をのぞき穴からのぞいているのかも。世界の捉え方を映像化したいという思いが、より鮮明になってきた」
(天笠美由紀)
【メモ】「萩原朔美の仕事展vol.1」は7月2日まで開催。午前9時~午後5時。水曜休館。無料。問い合わせは前橋文学館(☎027・235・8011)へ。
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