水辺や農村、全31図展示の企画展 北茨城の茨城県天心記念五浦美術館 

茨城新聞
2023年3月13日

■飛田周山ら、自然豊かな水郷めぐる

現在は陸続きとなっている浮島や十六島など、大正時代の利根川流域から水郷周辺の豊かな自然を今に伝える企画展「旅するチバラキ~連作《水郷めぐり》の全貌~」が、茨城県北茨城市大津町の茨城県天心記念五浦美術館で開かれている。同市出身の日本画家、飛田周山(ひだしゅうざん)ら4人の連作31点を展示し、茨城、千葉両県の美しい水辺や、のどかな田園風景が堪能できる。

連作「水郷めぐり」は1917年、飛田周山、水上泰生、山内多門、勝田蕉琴の4人の画家が描いた。作品は個人所蔵のため、全31図が一堂に公開されるのは約100年ぶりという。

4人は当時の美術団体「美術研精会」の関連作家だった。同会発行の美術雑誌「研精美術」の主筆で編集人の小池北風と、表具師を合わせ、6人で旅を共にした。翌年、小池は紀行文と作品写真をまとめた書籍「水郷めぐり」を刊行している。

一行は上野から電車に乗り、取手で下車。利根川を下り、佐原、浮島、潮来を巡った後、鉾田、大洗、水戸、土浦など各地を訪れ、筑波山に登った。5月13日から20日まで8日間のスケッチ旅行。この間、各地で写生して仕上げたのが、今回の展示作品だ。

大正から昭和初期にかけて、4人は文展や帝展など国主催の展覧会で活躍していた実力派。いずれも当時、40歳前後で、気の合う仲間が旅をしながら酒を酌み交わし、楽しみながら筆を競った力作がそろう。

同館首席学芸員の井野功一さんは「さらっとした表現の中にも、色彩や筆致にそれぞれの画家の工夫が見える」と語る。

飛田は1903年、岡倉天心を五浦に案内し、五浦移住や日本美術院移転のきっかけをもたらした人物として知られる。その後、横山大観と共に茨城県の美術振興に貢献。

今展には新緑の中、帆船と汽船が行き交う「嵐光水色 牛堀」、荒天で足止めされた「風雨泊舟 佐原」など9点が展示された。

飛田周山「風雨泊舟 佐原」(1917年、個人蔵)

 

作品はそれぞれ縦約50センチ、横約180センチ。水墨を主体に、水郷の湿潤な空気を伝えるような文人画調の連作で、大正期の水辺や農村の景観、そこに暮らす人たちの姿が旅情とともに楽しめる。

井野さんは「都市が近代化する中で、茨城には昔ながらの清らかな景色が残っていた。理想的な場所と映ったのではないか」と話している。

会期は4月23日まで。午前9時半~午後5時。月曜休館。前期3月19日まで、後期同21日から。展示は各20点で一部展示替えあり。県立歴史館(水戸市)で開催中の特別展「鹿島と香取」とのコラボで、入館料の相互割引が可能。いずれかの入館券を提示すると団体料金で入場できる。