辻永の画業迫る企画展 茨城県近代美術館 「別の顔」にも焦点

茨城新聞
2022年12月2日

茨城県ゆかりの画家、辻永(つじひさし)(1884~1974年)の画業に迫る企画展「辻永 ふたつの顔を持つ画家-油彩と植物画-」が、水戸市千波町の県近代美術館で開かれている。代表作を紹介する一方、10代から晩年まで描き続けた植物画も多数展示。画家としての「別の顔」にも焦点を当てている。12月11日まで。

■生態の記録

自作110点のうち60点が植物画。草花の特徴を捉えた緻密な描写を見ることができ、植物への関心の高さがうかがえる。

辻は生後ほどなくして広島市から水戸市に移り、旧制水戸中学校卒業まで県内で暮らした。少年時代から植物が好きで、個人的な楽しみや心の慰めとして植物画を描いていたという。同館によると、旧制中学時代から晩年までに描いた植物画の数は2万枚以上という。

それらは公に発表することが目的ではなかったが、和紙に墨と油絵の具で描いた草花は、その美しさから植物画集「萬花図鑑」(1930年)や「萬花譜」(55年)として出版された。

同館担当学芸員の乾健一さんは「美術作品というよりも、植物の生態の記録として描いた側面もあったのではないか」と思いを巡らし、「植物学的な観点で描かれているところが、辻の植物画の一つの大きな特徴」と語る。展示された植物画には彩色していない部分も見られ、必要な箇所にだけ色を付けていたことが分かる。

■「公」と「個」

辻は大正から昭和にかけて活躍した。東京美術学校西洋画科へ進学し、卒業後は国が開催する大規模な展覧会で受賞を重ね、洋画家としての地位を固めた。自宅で飼っていたヤギをモチーフにした作品で世に知られ、欧州帰国後は日本の風景を描き続けた。

戦後は社団法人化された日展の初代理事長を務め、文化功労者にも選ばれた。それら活躍の一方で、植物画も描き続けた。

展覧会への出品作を中心とする「公」の作品=油彩画と、発表目的ではなかった「個」の作品=植物画が同程度の量で紹介されるのは、今展が初という。代表作とされるヤギを描いた作品や風景画も多数展示されている。

「須磨の朝」(1956年、県近代美術館蔵)

 

午前9時半から午後5時。月曜休館。入場料は一般730円、70歳以上360円、高校・大学生490円、小・中学生240円。問い合わせは同館(電)029(243)5111。