再生のレール 湊線快走 大震災4年半 乗客数回復

茨城新聞
2015年9月11日

東日本大震災の発生から11日で4年半になる。大震災後、14.3キロに及ぶ全線でレールがゆがむなどの被害に見舞われたひたちなか海浜鉄道(ひたちなか市)の「湊線」は復興に全力を挙げてきた。昨年度は、2008年の開業以来最多となる輸送人員90万人を突破した。大震災を教訓に、沿線地域や企業との連携を中心に据えた利用客獲得への取り組みは着実に実を結び始めている。被災を乗り越えた〝赤字鉄道〟は、地域の「生活の一部」として再生したレールの上を力強く走っている。

「ガガガー」。午前8時25分。気動車特有のディーゼル音とともに、勝田駅発の列車が那珂湊駅下りホームに到着した。次々に降り立った高校生たちが幅4メートルほどのホームを埋め尽くした。
2両編成の列車の定員は約240人。この時間帯、乗車率はほぼ100%となる。「雨が降ると自転車通学が難しくなるので、特に高校生の利用が増える」。小雨が降る中、吉田千秋社長は駅舎へ向かう学生たちを見詰め、目を細めた。
午後4時すぎ、那珂湊駅は、学校帰りの高校生たちでこの日2度目のにぎわいに包まれた。通学のため、4月から毎日利用している高校1年の豊島栞奈さん(15)は「この鉄道がなかったら、今の高校を選ばなかったと思う」と話す。
沿線の学校に通う高校生たちにとって、湊線は重要なライフラインだ。震災による路線の被災を知らなかったという別の高校生(16)は「湊線は生活の一部。不通になるなんて考えたこともなかった」と目を丸くした。

震災発生当時、湊線はJR常磐線勝田駅と阿字ケ浦海水浴場を結ぶ全路線で、レールのゆがみや破損などの被害を受けた。金上-中根間は、沿線にあったため池が決壊。路面がさらわれ、レールが約100メートルにわたって宙づり状態となった。
また、平磯-磯崎間にあるトンネルは亀裂が入り、復旧時期を遅らせる要因となった。2011年7月23日の全線復旧まで約4カ月間、補修や復旧に掛かった費用は約3億円に上る。同社の年間営業収入を上回る経費だ。
同社は運休の期間中、通勤・通学客の足確保のため代行バスを運行。ただ、客離れは避けられず、利用も従来の7割にとどまる結果となった。

あれから4年半-。一時、減った乗客数は震災前の水準を超えるまでに回復した。14年度の輸送人員は約94万人。開業以来、初めて90万人を突破した。10年度の約78万人と比べても、15万人以上上回った。
「震災をきっかけに、地域や企業と連携を強めることが重要だと、あらためて気付かされた」と、吉田社長は振り返る。
失った乗客を取り戻すための積極的な誘客策が、客足を震災前の水準以上に伸ばす転機にもなった。
今年5月の開業7周年イベントは、国営ひたち海浜公園の入園無料日に開催し、2千人が訪れた。那珂湊駅周辺の商店街の催しも連動させた。また、企業とタイアップした取り組みも強化。列車内でビールや大吟醸、納豆などを楽しむ臨時列車を相次ぎ運行し、知名度向上に結び付けた。
震災の教訓を生かした最終損益赤字の解消が課題。「観光利用や広告宣伝、収益を伸ばす余地はまだある」。吉田社長は近い将来、黒字化を見据える。

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