「おいしさ」求め立ち上げ うしとらブルワリー(下野)
一口飲んだ瞬間に広がるホップの爽やかな苦みと華やかな香り-。記者が、クラフトビールにはまったきっかけは「うしとらブルワリー」(下野市笹原)の一杯だった。大手のビールとの味わいの違いに驚き、「おいしい」「自分好みの味を探したい」と一気にとりこになった。
うしとらブルワリーの原点は、東京・下北沢で15年にわたって愛されているビアバー。開業してしばらくは国内外のビールを仕入れていたが、「東日本大震災後の“特需”で地ビールが注目された一方、品質の良くないビールが増えた時期があった」と代表の寺崎晶王(てらさきあきお)さん(46)。紹介したいビールが減ったならば、自分たちがおいしいと思うものを造ろうとブルワリー(ビール醸造所)を立ち上げることにした。
東京近郊を中心に1年ほど候補地を探し、ようやく見つけたのが現在の場所。もともと地ビール工場だったため必要な設備がそろっていたこと、都内へのアクセスが良いことから即決し、2014年に誕生した。
これまで主戦場は、都内を中心としたビアバーへの樽生ビールの卸売りや全国各地で開かれるクラフトビールのイベントだった。醸造長の虎渡和也(とらとかずや)さん(34)は「ビアバーでは、限定ものの注文が多い。飲みに来てくれた人を飽きさせないことも大切」と話す。あえて定番商品を持たず、IPA(インディアペールエール)やサワーエールなどさまざまなスタイルに挑戦している。
製造過程で出た麦芽は産業廃棄物として処分するのが一般的だが、地元の養豚業者に豚の餌として提供。虎渡さんは「僕たちは麦芽の処理費用を減らすことができるし、養豚業者としても餌をまかなうことができる。お互いに好都合」という。
コロナ禍で都内の店舗は休業が続き、毎週のように参加していたイベントもほとんど中止になった。それでも寺崎さんは「地元の方に『うしとら』を知ってもらう良い機会」と前向きに捉えている。ブルワリーでは、昨年春から土日限定でテークアウト販売を開始。当初は常連客や県外客の利用が多かったが、現在は地元客が大半を占め、着実にファンを増やしている。
今年に入ってからは缶ビールの製造にも取り組み、卸売りと差をつけるため定番商品化した。「大人の缶ビール」は、ホップの苦みや香りをしっかり感じられるのにぐびぐみ飲み干せてしまう爽快さがたまらない、うしとらが得意とするIPAだ。缶ビールは地元道の駅にも置かれ、虎渡さんは「道の駅担当者から夕方5時以降の売れ行きが良いと聞いた。帰宅途中に立ち寄って、晩酌として選んでいただいているのでは」と笑顔を見せる。
寺崎さんは「コロナでお酒を飲む機会が減ったからこそ、じっくり味わうようになっている。ビールと真面目に向き合うきっかけになっているのでは」と受け止める。心置きなく味わえる日が戻ってくるのを信じて、真面目に、かつ楽しみながらおいしいビールを造り続けている。
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