布の表現、魅力再発見 テキスタイル・須藤玲子さん個展 制作過程、音響や映像で 茨城・水戸芸術館

茨城新聞
2024年3月20日

第一線で活躍する茨城県石岡市出身のテキスタイル(布地、織物)デザイナー、須藤玲子さん(70)の40年にわたる制作を振り返る大規模個展「須藤玲子 NUNOの布づくり」が、同県水戸市五軒町の水戸芸術館現代美術ギャラリーで開かれている。2019年に香港で企画開催され、欧州や香川県丸亀市を巡回。同展で須藤さんは本年度の芸術選奨の文部科学大臣賞を受賞した。着想のきっかけや制作過程、活用までを豊富な資料でたどり、代表作「こいのぼりなう!」などを通して、テキスタイルの魅力を再発見できる。

会場でまず視界に飛び込んでくるのが、同館シンボルタワーから着想を得た約15メートルの織物「タワー」。展示室に入ると、須藤さんのデザイン会社・NUNOが手がけた全国26産地444種類の布をつなぎ合わせた「幕 幔幕(まんまく)」が広がり、鑑賞者を布作りの世界にいざなう。

和紙と布を貼り合わせて作る「アマテ」の制作風景=水戸市五軒町

和紙と布を貼り合わせて作る「アマテ」の制作風景=水戸市五軒町

 

見どころは、音響や映像を用いて工場の一部を再現したインスタレーション。廃棄される繭の外側部分を活用した「きびそ」など代表的なテキスタイル7種類を紹介している。

手すき和紙をベルベット(美しい光沢があり細かい毛羽(けば)がある布地)の上に接着して作る「アマテ」は、皮革のような手触りが特徴。会場では、職人が穴あき模様の版を使って貼り合わせる様子を投影。洗われて和紙の一部が溶け、ユニークな柄が浮かび上がる様子を臨場感あふれる演出で体感できる。

展示で圧巻なのは、フランスの展示デザイナー、アドリアン・ガルデールさんとの共同制作「こいのぼりなう!」。うろこや目のない抽象的な形のこいのぼりが群れをなすインスタレーションで、テキスタイルに動きや命を吹き込むことに挑戦した作品だ。

同展では「続・こいのぼりなう!」と題し、ギャラリー内と広場の2カ所で展開される。

広場では、カスケード中央の岩を囲むように赤、黄、青など26匹を配置。岩は群れに溶け込み、1匹の巨大なこいのぼりのように見え始める。イマジネーションの源泉としてテキスタイルが作用することを表現した作品だ。

ギャラリー内では、51匹が空間をダイナミックに横断。水戸藩ゆかりの染色技法「水戸黒」で制作された「水戸黒刷毛目(はけめ)」のこいのぼりが先頭を泳ぐ。多彩な色合いや柄は、鑑賞者の好奇心をくすぐり、布が持つ可能性を感じさせる。

須藤さんは「どの布も優れた技術者がいなければ作れない。あらゆる職人が一つの布に関わり、届けられていることを感じてほしい」と話す。

会期は5月6日まで。月曜休館(祝日の場合は翌火曜日)。(電)029(227)8111。

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