古代誘う古墳ツアー 遺跡多く、魅力を解説 茨城・かすみがうら

茨城新聞
2023年8月24日

遺跡の数が茨城県内一多いというかすみがうら市。霞ケ浦周辺には、出土品が国の重要文化財に昨年指定された「風返稲荷山(かざかえしいなりやま)古墳」などが集中する。市歴史博物館が主催した「出島半島古墳ツアー」に同行し、古代のロマンを誘う古墳の魅力や歴史的意義を探った。

■市内最大

まず訪れたのは、市内最大の富士見塚古墳(同市柏崎)。5世紀末から6世紀初頭に造られた全長80メートルの前方後円墳(1号墳)は、芝生や植え込みが手入れされ、展示施設も備える。高さ約10メートルの墳頂部からは霞ケ浦や筑波山を望むことができ、眺めがいい。晴れた日に富士山を望めることから名前が付いた。

「当時は何と言っても水運だった。湖は今の高速道路」。案内役の大久保隆史学芸員(40)が、霞ケ浦沿いに古墳が集中する理由を解説する。水運をつかさどった豪族が古墳に眠っていたとみられる。石棺は筑波山系から運んだ変成岩でできている。

出土した円筒埴輪(はにわ)には舟が描かれ、水運との結び付きをうかがわせる。古墳自体が湖からの眺めを意識して造られたとみられ、湖に出て漁をする人たちのランドマークだったのかもしれない。シカ、犬、サル、馬をかたどった埴輪は「狩りの様子を表している」と大久保さん。

「柏崎地区には窯業の跡がたくさんあり、今のコンビナートのようだった」との説明があり、往時の様子を想像する。

続いて太子古墳(同市安食)に到着。前方後円墳は開発で削られてしまったが、後円部が残る。横穴式石室に入ることができ、参加者が狭い穴に順次入っていく。女性が「(埋葬者は)小さい人だったのかな」とつぶやき、壁の装飾に目を凝らした。

■茨城の宝

風返稲荷山古墳(同市宍倉)は「東日本を代表する終末期の古墳」と説明があった。県道から細い山道を数十メートル入っていくと、木立の中、右手に前方部、左手に後円部が現れた。全長は78メートル。

出土品の注目は馬具。金メッキが施され、市歴史博物館(同市坂)で開催中の企画展で実物が見られる。遣隋使の時代、「隋の使者を飾り馬75頭を並べて迎えたと日本書紀にある」と大久保さん。このうちの2頭分の馬具がここから出土した。聖徳太子と同時代の人物が葬られ、当時の中央政権との密接な関係がうかがえるという。

大久保さんは学生時代から訪れていた場所で、思い入れも深い。「国の重文に認められた茨城の宝」と強調した。

風返古墳群は同市と石岡市にまたがり、一帯に30基超が点在する。イチゴ栽培ハウスの先のこんもりとした緑の丘、人の背丈ほどの盛り土-。説明がなければ分からないような古墳が日常に溶け込んでいる。

温度計が38度を示す酷暑の下、参加者約20人はバスで古墳を巡った。舟塚古墳(小美玉市)のデザインTシャツ姿で加わった石岡市の無職、武田登志子さん(70)は「楽しかった。専門家の解説があるとより楽しく、分かりやすい」と満足した様子だった。

古墳は全国に16万基あり、コンビニの3倍近い数になる。かすみがうら市内には県内最多の788カ所の遺跡があり、このうち古墳の数は500を超える。未調査の古墳も多く、今後の研究で解明されていくことを期待したい。