《上州ブランド図鑑》旅がらす 伝統せんべいで軽い食感と風味

上毛新聞
2017年9月13日

パリッとした食感の鉱泉せんべいでクリームを挟んだ「旅がらす」。和洋の味わいがつくりだすハーモニーは、幅広い世代に親しまれている。旅がらす本舗清月堂(前橋市新堀町、糸井義一社長)が製造販売を始め、来年で60年。伝統の製法を守りながら、新たな味を届けている。
(須藤拓生)

創業は昭和の初めにさかのぼる。前橋中心街を走る立川町通りで、初代の大磯浩さん(故人)が1927(昭和2)年、鉱泉せんべいなどを製造販売する和菓子店を始めた。

◎由来は八咫烏
旅がらすを考案したのは2代目の大磯誠さん(同)だった。ある日、クリスマス商品に使ったクリームを、鉱泉せんべいに付けて食べたところ、おいしかったことから商品化を思いついた。クリームのプレーン味を58年2月に発売し、翌月には旅がらすゴールド(レモン、チョコレート味)を売り出した。
商品名は、古事記の神話に登場する八咫烏(やたがらす)からヒントを得た。神武天皇が熊野から大和に向かう際に八咫烏が導いたとされることから、「旅を案内する」という意味を込めて「旅がらす」と命名した。創業地の立川町通りには、八咫烏とゆかりの深い熊野神社があることから、着目したのではないかとの見方もある。
「当時としては画期的な商品だった。前橋の土産と言えば、片原まんじゅうか、旅がらすというほど売れていた」。同じ立川町通りでそば店「大川屋本店」を営む大川優さん(68)は振り返る。

◎直営店を再編
ただ、創業から90年の歩みは決して平たんではなかった。直営店を増やすなど規模拡大を図ったが、大型設備投資が経営を圧迫。2014年、高崎市内に生産拠点がある洋生菓子製造販売の「ドンレミー」(東京都)の傘下に入った。再建を託されたのは元県警刑事部長で、ドンレミー専務の糸井社長(65)だった。
26あった店舗は高崎市の小鳥町店を残して閉鎖した。収益性を高めたことで初年度から黒字に転換。昨年11月には本社工場直売店を設け、直営2店舗体制となった。県内のスーパーや百貨店、近県の高速道路のサービスエリアなどにも卸している。都内での取引要望も多いが、本県を中心にした販売戦略を貫く。

衛生管理が行き届いた工場で1枚ずつ製造される

製法は伝統を守り続けている。使用する水は磯部せんべいと同じく、安中市の磯部温泉の鉱泉水を使用。鉱泉水と小麦粉を混ぜ、砂糖などを加えて薄さ2ミリ程度に焼き上げる。
製造責任者の八木原幸雄製造1課長(40)は「普通の水だと、せんべいが堅くなってしまうが、鉱泉水の炭酸成分により、さくっとした軽い食感になる」と効果を説明する。
味のアクセントになるクリームは水分の少ないバタークリームを用いる。水分が多めのクリームだと、せんべいがべたっとした感じになってしまうが、バタークリームを用いることで時間が経過してもパリパリの食感が楽しめる。

◎乳酸菌入りも
昨年4月には健康をテーマに、旅がらすの新商品を出した。従来のプレーン、レモン、チョコに加え、新たにブルーベリー、ごま、抹茶の計6種の味で構成する「プレミアムゴールド旅がらす」だ。せんべいに県産小麦「白金鶴」を100%使用し、食感と風味の良さが増した。金色の包装と専用手提げ袋を用意し、贈答品としての価値を高めた。中元や歳暮用によく売れている。
さらなる健康志向を打ち出したのが、鉱泉せんべいのみの新商品「旅せん」。熱に強い「シールド乳酸菌」を配合している。クリームを挟まず、自分好みの味にして食べられることを売りにした。

贈答用として人気が高い旅がらす=高崎市の小鳥町店

◎多彩な食べ方
旅せんの食べ方を紹介する「アレンジブック」も作成した。ジャムやチーズを挟んだり、細かく砕いてサラダにかけたりしてもおいしいという。小鳥町店ではソフトクリームに添えて販売している。スパイシーなカレーと一緒に食べても、ほのかな甘みが合う。オリジナルレシピの募集もしている。
糸井社長はこうした新商品について、「伝統の旅がらすを守りつつ、健康をテーマに、お客さまのニーズに合ったものを作り上げた」と力を込める。こだわりの製法と新たなアイデアで、旅がらすは進化を続ける。

◎女性の意見商品に反映
旅がらす本舗清月堂は、主力の旅がらす以外の商品開発にも力を入れている。レーズンクリームをビスケットで挟んだ「重ねレーズン」(8個千円)や、ミルクのあんが入った「つるまう饅頭(まんじゅう)」(同1080円)、白い粉糖に包まれたクッキー「シルクボール」(12個750円)など、昨年相次いで新商品を投入した。
こうした商品開発のデザインや販売戦略などで力を発揮しているのが、若手の女性社員でつくるプロジェクトチームだ。定期的に集まり、アイデアを出し合っている。糸井義一社長は「プロジェクトチーム発の新商品を出していく」と意気込む。

高崎市の小鳥町店ではソフトクリームに旅せんをトッピングしている

【データ】 前橋市新堀町に本社・工場がある。1927年創業、51年に法人化した。従業員約70人。定番の旅がらすは5個370円。プレミアムゴールド旅がらすは12個1300円。旅せんは30枚800円。インターネット通販でも取り扱う。

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