《上州ブランド図鑑》生クリーム大福

上毛新聞
2017年10月23日

斬新な発想で人気 和洋折衷スイーツ

冷やした餅を一口かじると、上品な甘さのあんとともに、生クリームの味が口いっぱいに広がる。生菓子店「妙ちくりん」が販売する生クリーム大福は今や本県を代表するスイーツになった。伝統的な和菓子の大福の中に生クリームを入れるという斬新な発想で、時間をかけながらファンを増やし、心をつかんでいる。(和田亮介)

■こだわり
つきたての餅とあん、生クリームを機械にセットするとたちまち大福が出来上がり、ラインで次々と運ばれていく。伊勢崎市内の製造工場。何げなく繰り返される作業の中で、従業員が体重をかけながら機械にあんを押し込んでいる。

固めに仕上げたあんを機械に押し込む従業員

「大福の形が崩れないよう、生クリームを包んでいるあんは固めに仕上げている」。妙ちくりんの運営会社「Rune(ルーン)」(伊勢崎市連取町)の影森剛社長(54)はその理由を明かす。食べた時の満足感を得られるように、生クリームをたっぷり注入するために必要な工夫だ。
餅ならではの風味と粘りを出すために、餅粉ではなく、国産ブランドのもち米を毎朝ふかし、ついて使用している。「乳脂肪分が高いと解凍時に味が悪くなる」(影森社長)ことから、生クリームは冷凍販売でもおいしい乳脂肪分のバランスにこだわる。工場では大福が完成するとすぐ冷凍庫に入れて、出来たての味を閉じ込める。

工場で次々と出来上がる生クリーム大福。すぐに冷凍庫に入れる

生クリーム大福の生みの親である影森社長は、富岡市内の老舗和菓子店に生まれた。高崎商業高を卒業後、県内の専門学校に進み、和洋菓子の基礎を学んだ。「専門学校生だった当時から洋菓子は人気だった。自分自身も和菓子よりチョコレートや生クリームの方が大好きだった」

■口コミ
家業を手伝っていたある日、ごまだれ入りのもちを食べた経験から、大好物の生クリームを大福に入れられないかと考えた。試行錯誤を重ねながら、味に一ひねり加えようとコーヒー味のあんに変えて、実家の店頭に生クリーム入りのコーヒー大福を並べた。今から30年以上前のことだ。
自信はあった。でも客にとっては味が想像できず全く売れなかった。
影森社長は1998年、独立して伊勢崎市内に「妙ちくりん」を開業した。団子をメイン商品にしながら、コーヒー大福も1日100個作って販売したが、「いつも半分は残ってしまった」(影森社長)という。
しかしヒットのきっかけをつくったのは、この売れ残り品だった。部活動帰りに団子を買ってくれる高校生たちに試食してもらい、家族の土産用に持たせた。すると、その家族が店に買いに来てくれるようになり、評判が口コミで広がった。
仕入れるもち米はどんどん増え、1日に300個の大福がたちまち売り切れる大人気商品になった。

■14種類
初めはコーヒー大福のみだったが、次々に味を増やし、現在は計14種類まで広がった。今月7日には14番目となる「黒蜜きなこ大福」を発売した。人気商品はコーヒー大福が圧倒的で全体販売個数の約半分を占め、まっちゃ、ティラミス、ブルーベリー、ショコラの味が続く。

新商品のアイデアは影森社長や従業員のほか、買い物客らの意見も参考にしている。大福の包装紙も見直し、デザイナーに依頼して色鮮やかなデザインにした。
影森社長は「大福の見た目は地味なので、包装でおいしさを伝えられるようなカラフルなデザインにした」と話す。まるで“宝石箱”のような色映えの詰め合わせは、「インスタ映え」するとして注目を集めているという。

■新商品
今後は、より原料にこだわった高めの価格設定の新商品を次々と投入していく予定。ティラミスやラムレーズン、塩キャラメルなど、本格的な味を好む人向けに検討が進んでいる。それでも影森社長は「ただ種類を増やしていけばいいわけではなく、納得のいく味にしなければいけない」と語る。
目指すのは、確かな味で県民に選ばれ続けるスイーツ。「群馬のお土産としての地位をさらに固めて知名度を上げていきたい」と先を見据えている。

◎インパクトで命名 店名の由来 ロゴは母の書
一度聞いたら忘れない「妙ちくりん」という店名は、影森社長が「インパクトがあって覚えやすい名前」として開業直前に思いついた。「商品として『珍しい生クリーム大福を販売しているからか』と周りに言われることが多いが、それは後付け」と笑う。
店名のロゴは、書の資格を持つ母の一枝さんが書いた。大福が思うように売れなかった当時、こうした家族とのつながりが深い店を何とか存続させようと「本当に必死だった」と振り返る。
今年3月、通信販売を強化するためECサイトを立ち上げた。高崎市出身で大食い番組などで活躍するゆりもりさんをイメージキャラクターに据え、若年層へのPRに力を入れている。

カラフルな包装紙で見た目も楽しい生クリーム大福=妙ちくりん伊勢崎店

【データ】生クリーム大福は1個125円(税別)。妙ちくりんの店舗は伊勢崎店(伊勢崎市連取町)、高崎新保店(高崎市日高町)、邑楽町店(邑楽町鶉)の3カ所。生クリーム大福は1日約1万個を製造し、年間約3億円の売り上げを誇る。

 

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