《挑戦の100回・水戸室内管弦楽団》(上) 「世界のオザワ」発信

茨城新聞
2017年10月6日

水戸芸術館(水戸市)の専属楽団、水戸室内管弦楽団(MCO)の記念となる100回目の定期演奏会(定演)が13、15両日に同館で開かれる。結成から27年。「水戸から世界へ」を旗印にMCOは挑戦を続ける。

優雅で重厚なチェロの響きと、気鋭のソリストたちが奏でる弦楽の調べが見事に溶け合った。演奏が終わると、音楽ホールは歓喜に包まれ、万雷の拍手は10分近く鳴りやむことがなかった。

1990年4月8日、水戸芸術館のコンサートホールATM。世界的指揮者の小澤征爾(当時54歳)が率いるMCOの第1回定期演奏会が、20世紀後半を代表するチェロ奏者のムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(当時63歳・故人)を迎えて開かれた。

小澤はロストロポーヴィチを「兄貴のような存在」と慕い、2人は音楽家の立場を超えた深い絆で結ばれていた。初めて公開練習したロストロポーヴィチは弦の響きを聴き、「このホールはいい」と同館の将来を祝福した。本番で2人は互いの呼吸を確かめ合うように、高みへと上り詰めた。

歴史的演奏が終わると、館長の吉田秀和(当時76歳・故人)が花束を手に登壇。大役を務めた小澤や楽団員をたたえ、客席に向けて熱く語り掛けた。「皆、脂が乗った人ばかり。ここでやる仕事を、誇りと愛を持ってこれから先も聴いていってください」。MCOの世界への船出だった。

MCOが所属する水戸芸術館は、水戸市制100周年記念施設として、90年3月に開館。発案者の市長、佐川一信(当時49歳・故人)は、文化を通して水戸のまちを世界に発信することを目指し、市の年間予算の1%を館の運営に充てる制度を国内で初めて導入した。

同館を構成する音楽、演劇、美術の各部門には、同じく全国に先駆けて芸術監督制度を取り入れ、自主企画の公演や展覧会などの事業を行っている。

初代館長に就いた音楽評論家の吉田は、文化芸術への深い造詣と国際感覚を備えたいわば「知の巨人」。当初、館長の職を固辞したが、佐川から「世界に発信できる館にしてほしい」と何度も説得され、結局、かじ取りを担うことになった。

吉田が「腕っこきのソリストを集め、世界で通用する室内管弦楽団にしたい」と、音楽部門に創設したのがMCOだった。指揮者に指名された小澤は、戦後の復興期に吉田がチェロ奏者の斎藤秀雄らと立ち上げた「桐朋女子高校音楽科」の第1期生。73年、38歳の若さでボストン交響楽団の音楽監督に就任するなど「世界のオザワ」として圧倒的支持を集めていた。

MCOの大きな特徴は、「指揮者を置かない合奏」と「指揮者に率いられた合奏」の二つの顔を自由に使い分けられるところ。団員は、国際的に活躍する独奏者や、他のオーケストラで首席奏者を務める実力者ぞろい。「一人一人が互いの音を聴いて高め合う能力を備えている」。同館音楽部門芸術監督の中村晃(50)はMCOの強みを説明する。

96年から活動の舞台は、東京や大阪など日本各地に拡大。98、2001、08年にはヨーロッパ公演を成功させるなど、音楽の新たな歴史を刻み続けている。 (敬称略)

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