《上州ブランド図鑑》湯の花まんじゅう 伊香保発の名菓 あんや皮に個性
温泉旅行の定番土産と言えば、温泉まんじゅうが思い浮かぶ。茶色い皮にあんこが詰まった小ぶりのまんじゅうは、全国各地でお目にかかれる。その発祥と言われているのが伊香保温泉(渋川市)の「湯の花まんじゅう」だ。温泉街には手作りにこだわる店から、機械化で大規模展開する店までそろい、自慢の味を提供している。(高瀬直)
湯の花まんじゅうは明治時代に考案された。発祥の店は石段街の一番上、伊香保神社近くにある勝月堂。初代の半田勝三さんが東京の老舗菓子屋で修業し、帰郷して1910(明治43)年に店を構えた。その際、地元の知り合いから「伊香保に名物を作ってみては」と持ち掛けられ、試行錯誤の末に「湯乃花まんじゅう」が完成した。
◎湯花の色再現
イメージしたのは「黄金の湯」の湯花だった。鉄分を含んだ湯は空気に触れると茶褐色に変色する。その色を出すため、皮に温泉を混ぜるなどしたという。最終的に黒糖を入れ、配合を調整することで、湯花の色を再現したまんじゅうに仕上がった。
全国的に有名になったのは、34(昭和9)年に陸軍特別大演習で昭和天皇が来県した際、まんじゅうが献上されたことによる。この時に県から示された「買上書」は今も大切に保管している。その後、伊香保だけでなく、全国各地で「温泉まんじゅう」として売られるようになった。
勝月堂のまんじゅうは皮が厚くもちもち感がある。他店よりも色は薄めだ。1個90円。「黄金の湯の色合いとしてこの色にこだわってきた」と4代目の半田正博さん(60)は話す。
元銀行員の半田さんは10年前、家業を継いだ。子どもの時から作業を手伝ってきたが、あらためて菓子作りを知るために1年間、製菓学校に通った。基礎を学び、父から受け継いだ味を守る。半田さんは「発祥の店として、細く長く続けていきたい」と話す。
◎手作り貫く
手作りで丁寧な仕事を続ける店もある。大黒屋本店は昭和20年代に創業した。全ての作業を佐藤至昭さん(58)が1人で手掛ける。甘みとほろ苦さを出すため、隠し味にカラメルを加えている。
皮を少し厚めにしたり、塩加減を調節したり改善を続ける。1個90円(売り切れ次第終了)。佐藤さんは「お客さんに応えるために作っている」と言い切る。
寿屋もあんこ作りから包あんまで手仕事を貫く。63(昭和38)年に登坂寿兵衛さんが立ち上げた店で、創業当初から湯の花まんじゅうで唯一、つぶあんを使った商品を提供している。
2代目の登坂好一朗さん(58)は「独立に当たり、他と違ったものをと考え、つぶあんを始めたのだろう」と推し量る。同店は石段街から少し離れた場所にあり、店の特色を求めたのかもしれない。こしあんのまんじゅうも出しているが、思惑通りつぶあんの方がよく売れるという。
砂糖はざらめを使い、さっぱりめに仕上げる。つぶあんのまんじゅうはごつごつして、つるりとしたこしあんに比べて見た目は多少ふぞろい。「まんじゅうの形も個性と捉え、品質の良さにもこだわり手作りをしていきたい」と力を込める。1個90円。
◎1日に数万個
「清芳亭の湯の花まんじゅう」のラジオCMでおなじみの清芳亭(清水聖二社長)。早い時期から機械化を進め、今では伊香保で一番規模の大きな店に成長した。店舗兼工場であんこから作り、最盛期には1日数万個を製造する。伊香保にあるほとんどの旅館に委託販売で商品を置いている。
均一にあんこの固さを保ち、いつ食べてもおいしいまんじゅうを提供している。1個80円。飽きのこない甘さでリピーターも多い。担当者は「まんじゅう作りは崩してはいけないものがある。今あるメニューを大切にしていきたい」と話す。
◎15店「食べ比べ」
伊香保温泉のある渋川市では2011年から、市内の人気まんじゅう店が一堂に会する「MM(まんなか・まんじゅう)―1フェスティバル」が開かれている。
温泉まんじゅうを筆頭に、まんじゅうの名店が多い同市をPRするため、渋川商工会議所青年部を中心とした実行委員会が主催している。
7回目となった今年5月には温泉まんじゅうや酒まんじゅう、田舎まんじゅうなど15店が出店した。来場者は各店のまんじゅうの食べ比べを楽しんだ。
実行委員会の担当者は「7回を数え浸透してきている。現在は渋川だけだが、全国の有名なまんじゅうを加えるなど新しいことを取り入れ、続けていきたい」としている。
【データ】伊香保温泉街では現在、10軒程度が湯の花まんじゅうを販売しているという。最盛期は紅葉シーズンで人出が増える11月ごろ。商品を地方発送する店も多い。
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