《上州ブランド図鑑》神津牧場ソフトクリーム 濃厚な味と口溶け 季節で味わい変化
神津牧場(下仁田町南野牧)で育てるジャージー種の牛乳は脂肪分が多く濃厚な味わい。この素材の良さを存分に生かしたのがソフトクリームだ。コクがありながら後味は軽やか。日本にソフトクリームが普及していなかった60年以上前に発売され、今なお幅広い世代に支持されている。こだわりの製法に、おいしさを引き出す秘密がある。
「すぐに溶けちゃうから、大きなコップに入れてもらって食べた思い出がある。さらっと口当たりが良くて、本当においしかったですよ」。神津牧場でソフトクリームが発売された1956年、医大生だった精神科医の荒木秀子さん(83)=東京都豊島区=は鮮明に記憶している。
当時牧場長を務めていたのが父の斎藤武さん(故人)。東京大農学部を卒業後、中国の北京大で農業経済の教授を務めた経歴を持つ。
◎収益構造の転換
終戦を機に帰国し、小岩井農場(岩手県)を経て54年に神津牧場長に就いた。すると、戦後、観光依存型だった収益構造を転換するため、酪農や牛乳加工、飼料生産の拡大を基本とする経営戦略を打ち出した。この時代にソフトクリームが誕生した。
この頃から基本的な製法は変わっていない。主な原料は牛乳や砂糖で、卵やバニラエッセンス、添加物は加えない。須山哲男場長(67)は「混じりっ気がないから溶けやすい。牛乳の味を生かすためできるだけシンプルに作っている」と話す。
神津牧場は、長野県佐久郡の豪農に生まれた神津邦太郞(故人)が1887(明治20)年に開設した。上海に留学した際、欧米人と日本人の体格差を感じ、日本人の食生活改善を目的にバターを作ろうとしたのがきっかけだった。国内最古の洋式牧場としても知られている。
◎ジャージー種
飼育方法は放牧が基本。約100ヘクタールの広大な土地で、ジャージー種約200頭が牧草を食べ、ストレスが少ない状態で過ごす。毎日午後1時過ぎ搾乳のため牛舎にやって来て、搾り終えると牧草地に戻る。行列を作って移動する光景は牧場の名物でもある。
ジャージー種はホルスタイン種と比べて乳量が少ない。ただ、脂肪分が約5%と高く、乳製品を作るのに向いている。さらに、この牧場では牧草を与えるため、ビタミンやカルシウム、ミネラルが豊富に含まれている。
牧草を食べる夏場の牛乳はすっきりとした味わいで草の香りが強い。一方、運動量が減り、干し草を食べる冬場は脂肪分が多く、よりコクが出る。担当する事業部長の大塚力さん(46)は「季節によってソフトクリームの味も変わってくる」と説明する。
搾った牛乳は牧場内の工場で味付けした後、強い圧力をかけて脂肪球を細かくし、口当たりを良くする。その後、75度で15分かけて殺菌。120度といった高温で殺菌するよりも消費期限は短くなるが、味わいを損なわない。
ソフトクリームの素となる「ソフトミックス」にしてパック詰めされる。売店ではソフトミックスをフリーザーに入れてかき回し、空気を入れながら冷やしていく。そして、ぐるぐると巻いておなじみの形になり、350円で販売される。
◎広がる販路
ソフトミックスは、事業者向けに卸している。道の駅しもにた(下仁田町)や道の駅ららん藤岡(藤岡市)など県内を中心に、東京都や長野県など約30カ所で取り扱う。
道の駅玉村宿(玉村町)は通常のソフトクリームのほか、季節の果物を載せたパフェとして提供。東京・銀座のぐんまちゃん家(ち)では、取扱商品の中で数量ベースで上位5位以内に入る人気だ。
神津牧場のソフトクリーム関連の2016年度売上高は5500万円に上り、乳製品全体のおよそ半分を占める。
現在、施設の老朽化のため場内に新工場を建設している。大塚さんは「お客さんがおいしいと喜んでくれることが喜び。これからも味を守りながら、県外にも販路を広げていきたい」と意気込む。
◎地域色豊かなご当地品人気
地域色豊かな「ご当地ソフトクリーム」が盛んだ。たんばらラベンダーパーク(沼田市)はラベンダーソフトクリーム(400円)が人気。豊かなラベンダーの香りが楽しめ、1シーズンの来場者12万人のうち半分が購入する。
道の駅上野(上野村)は、麦と大豆から造る名物の十石みそを練り込んだ十石みそソフトクリーム(350円)を販売している。濃厚なチーズのような味わいが楽しめる。
みどり市に工場がある老舗しょうゆ醸造、岡直三郎商店(東京都)は、うまみの強い再仕込みしょうゆを入れた醤油(しょうゆ)ソフト(300円)を開発した。みたらしのような味で、多い日は1日300個売れるという。
【データ】日本ソフトクリーム協議会によると、国内に初めてソフトクリームが登場したのは1951年。明治神宮で開かれた進駐軍主催のカーニバルで販売されたという。7月3日だったことにちなみ、毎年この日が「ソフトクリームの日」となった。
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