茨城県北芸術祭 作品を見に行く(6) 常陸太田 住民や商店主の思い表す

茨城新聞
2016年10月26日

古くから地域の中心地として栄えた常陸太田市では、アーティストが住民と触れ合いながら、歴史や伝統文化、人々の営みに独自の視点を当てた作品が展開されている。

鯨ケ丘地区に入ると目に飛び込んで来るのが、商店街の建物を鮮やかに彩るピンク色の窓だ。「サインズ オブ メモリー2016:鯨ケ丘のピンクの窓」は、原高史さんが「皆さんの言葉を可視化したい」と住民とともに作り上げた作品。窓に貼られたパネルには、原さんが住民や商店主から聞いた家族やお店の思い出、地域への愛着などをつづった文章と、その思いを表した絵が添えられている。

特に目を引くのは動物や女性とともに多くの窓に描かれたろうそく。原さんは、命や記憶などを象徴しているといい、過ぎ去った時間の流れやその時々のはかない思いを感じさせる。

市郷土資料館「梅津会館」には深沢孝史さんが想像上の自治体「常陸佐竹市」の市役所を開庁した。豊かな土地の恵みを生かし、長く繁栄した佐竹氏の「つなげていく力」を「佐竹力」と名付け、ゆかりの品々などを展示。佐竹氏の精神性を掘り起こすことで、「発見されているけど、発信されていない」地域の魅力を浮き彫りにしている。

また、深沢さんは「(佐竹力を)現代と結び付けたい」と、住民と一体となった活動を展開中。11月12日には子どもたちと作ったみこしが鯨ケ丘地区を練り歩くイベントを「常陸佐竹市民」とともに繰り広げる。

続いて向かった旧市自然休養村管理センターには、先端技術と県北の自然や伝統技術を融合させたバイオアートが並ぶ。

岩崎秀雄+metaPhorestの「aPrayerまだ見ぬつくられしものたちの慰霊」は、微生物や人工細胞を通して、「命とは何か」を問うプロジェクト。人工細胞の亡きがらなどを入れたガラスつぼが設置された慰霊空間では、科学的な命の概念と日常の死生観が交錯し、目まいを覚える。一方、県北地域で盛んな発酵食品文化を支える微生物に着目し、市内で日本酒やパンづくりに携わる人々などに行ったインタビューの映像を見ていると、「微生物を慰霊すると聞いてどう感じたか」などと聞かれて戸惑う関係者に共感し思わず頬が緩む。

このほか、水府地区松平休耕地付近にある井上信太さんの「『ART ZOO』:サファリパークプロジェクトin常陸太田」や、竜神大吊橋で15日から公開が始まったチェ・ジョンファさんの「山海魚LOVE」は、周囲に広がる雄大な景色とともに楽しめる作品だ。(おわり)

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