鴻池朋子展 幅24メートル、牛革との“対話” 近代美術館
ㅤ縫い合わせた牛革にダイナミックに描かれた天変地異、臓器、動植物―。アーティストの鴻池朋子さん=東京都=の個展「根源的暴力Vol.2」が高崎市の県立近代美術館で開かれている。東日本大震災後、新たに生み出した絵画や立体、インスタレーションなど約70点を紹介。開催地によって新作が加わる巡回展は“進化”しながら、人が物をつくる根源を問い直す。
ㅤ鴻池さんは震災以降、制作をいったん停止した。「日本全体に蓄積されていたいろいろな素地が震災によって出てきた。いいものも悪いものもむき出しになり、自然や人間関係の背後にあるものと本音でぶつかり合う土壇場になった」
ㅤ自身もそれまでの創作スタイルに行き詰まりを感じていた。考古学者やおとぎ話研究者、人類学者、美術評論家など多分野の人と対話し、素材を探し続けた。生まれ育った秋田では、山小屋を自然と人間の境界線と捉え、作品展示を試みた。
ㅤそうした中で生まれた震災後の初期作品は素焼き粘土によるヒトデやウミウシのような原生動物。「粘土は握れば形になる。触って確かめることは切実だった。目や耳、鼻よりも、手が感知するのだということを痛切に感じた」という。
ㅤその後、出合った牛革はしっとりとして、ふわふわした感触に可能性を感じた。「革は日焼けしたり、経年変化する。コントロールできない相手との対話に実感を持てた」
幅24メートル、高さ6メートルの大作「皮緞帳(かわどんちょう)」は縫い合わせた革に動植物や骨、臓器、自然現象をクレヨンと水彩絵の具で描いた。継ぎ目が生々しく、図柄は強烈なインパクトを放つ。昨秋の神奈川県内での個展に次ぐ今回は、つららなどを加筆。巡回ごとに変容し続ける。
ㅤ牛革と陶物(すえもの)による「赤い心臓」は初公開だ。
ㅤなめしたままの革に描いた「皮緞帳」に対し、四角いパネルにはめ込んだ革の作品は、社会の枠組みや閉じ込められた息苦しさを感じさせる。
ㅤドローイングに、県教育委員会から借りた縄文時代の石器を散らばらせた作品も並ぶ。原案ともなるドローイングと、人間が生きるために生み出した石器。人が物を作ることで成熟、進化した意味を見いだす展示になっている。
ㅤ「根源的暴力」が指すのは自然の力なのか、自分の中にあるものなのか。タイトルは示唆的だ。鴻池さんは「作品も作者も当てにならない。人間も自然も二項対立で比較ではなく、混在する中で、どう自分が判断するか考える展覧会でもある」と話す。
こうのいけ・ともこ 1960年、秋田市生まれ。東京芸術大日本画専攻卒。玩具や雑貨のデザインに携わった後、アーティストとして活動。国内外で絵画や彫刻、インスタレーションを発表している。2010年、群馬青年ビエンナーレ(県立近代美術館、上毛新聞社主催)審査員を務めた。東京都在住。
【メモ】鴻池朋子展「根源的暴力Vol.2あたらしいほね」は8月28日まで。午前9時半~午後5時。月曜と7月19日休館(18日、8月15日は開館)。一般610円。6日午後2時から、頭蓋骨を振動させて音を出すホーメイ歌手、山川冬樹さんと鴻池さんのトーク・パフォーマンスを行う。参加無料(要観覧券、事前に申し込む)。問い合わせは県立近代美術館(電話027・346・5560)へ。
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