画家・近藤亜樹さん個展 多彩な生物 混然一体 「描くこと」で向き合う 水戸芸術館 茨城

鮮やかな色彩と躍動感あふれる筆致の絵画を手がける画家、近藤亜樹さんの個展が、茨城県水戸市五軒町の水戸芸術館現代美術ギャラリーで開かれている。タイトルは「近藤亜樹:我が身をさいて、みた世界は」。近藤さんは自身を取り巻くさまざまな事象に対し「描くこと」で向き合いながら、希望や生命への祝福として昇華してきた。
近藤さんは1987年、北海道生まれ。東北芸術工科大大学院で学ぶ中、東日本大震災を経験。翌12年、画家としてデビューする。震災、戦争、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と社会を揺さぶった事象から、夫の死や出産といった人生の転機となる出来事、植物や食べ物などの日常的なモチーフまでを広くテーマとし、描くことで受け止め作品へと昇華していった。
本展は4年ぶり過去最大規模の個展で、22年以降の代表作24点と本展に向け制作された新作64点が並ぶ。展示構成は、磯崎新アトリエに勤務し同館建設に携わった建築家の青木淳さん。
展示の目玉となるのが、幅9メートルを超える新作「ザ・オーケストラ」。人間、動物、昆虫、植物と多彩な生き物が音楽を奏でながら混然一体となる大胆な構成に圧倒される。
着想のきっかけは、高速バスの車窓から見た巨木だった。雷に打たれたのか、黒く焦げ、形をゆがませた姿がまるで指揮者のように、流れていく電線が五線譜のように見えた。その時聞いていたのが、同館前館長の小澤征爾氏が指揮する音源。「新作はオーケストラの絵を描こう」とひらめいた。その後、同館から個展開催の打診があり、運命的な巡り合わせに制作の意志が強まっていった。
制作を進める中で、形のない音楽をいかに表現するかが壁となった。小澤氏率いる水戸室内管弦楽団の音源を何度も聞くうち、音が骨に伝わってくるのを感じた。「私にとって音は骨、震える振動、大きなうねりだった」。同作の画面右上で異彩を放つ白髪の鳥は、小澤氏をイメージしているという。
本展に向け制作されたシリーズ「サボテン」は、壁に飾られるのではなく廊下に立つように展示され、鑑賞者は絵画の間を縫うように歩みを進めていく。「本当に少しの水でも彼らは生き延びようと成長する。そして自分を裂いて新しい芽を吹き、どんどん子を増やしていく」。長い廊下の奥へと足を進める中で、サボテンは生命力や他者を慈しむ心の象徴として立ち現れてくる。
近藤さんは「難しいことを考えずに、ただ楽しんでもらいたい。分からない、気持ち悪いも含めて心に浮かんだ感情は全て大切なもの。(作品に)出合ったからこそ生まれる感情をぜひ体験しに来てほしい」と話している。
会期は5月6日まで。月曜休館。3月1日には作品とともに音楽家の演奏を楽しむミニコンサート「ザ・オーケストラの部屋」が、4月27日には植物屋「叢」とのコラボによるワークショップ&トークが開かれる。問い合わせは同館(電)029(227)8111。